アトピー児の低蛋白血症にはステロイドを外用すべきか食事を工夫すべきかステロイド依存の分子生物学的メカニズムを考える(3)

ペリオスチンの話


 最近、佐賀大学の生化学教室から、下の論文が出て、テレビや新聞で「アトピー性皮膚炎の慢性化の機序が解明された」とニュースになっています。
 
Periostin promotes chronic allergic inflammation in response to Th2 cytokines  
Masuoka M et.al J Clin Invest. 2012 Jun 11.

http://www.jci.org/articles/view/58978
 
 論文は上記URLでfreeで読めるので、ご参照ください。良く出来た論文だと思います。
 「これについてどう考えるか?」というメールをいくつか頂いたので、簡単にではありますが、「ステロイド依存」に関心を抱く立場から、解説します。

 論文の最後にまとめの図があります。
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 このような、Th2系を活性化させるような、輪になった経路が存在するようだ、というのが、この論文の結論です。ですから、アトピー性皮膚炎の慢性化を防ぐためには、この閉じた悪循環(Vicious circle)を、どこかで断ってやらなければならない。

 この論文が証明した部分(ペリオスチンのところ)を除くと、下図です。これが、従来までに明らかにされていた部分です。
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 アトピー性皮膚炎の人では、もともとTSLPが亢進ぎみです。外界からの抗原刺激によって、Th2優位のアレルギー状態にあります。
 ここで、ステロイド外用剤を用いると、下図のように、Th2系は抑えられます。
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 ステロイド外用剤を中止すると、Th2系は、非常に亢進します(→
こちら)。このTh2系の亢進が、半端ではないので、リバウンドで苦しい思いをするわけです。なんで、こんなに強い反応がおきるのだろう?ここのメカニズムが解りませんでした。
4






















  
 今回の佐賀大学の論文は、Th2系からTSLPへ、正のフィードバックがあって、輪になっていることが解りましたから、私に言わせると、これは、ステロイド離脱後のリバウンドのメカニズムが、また一歩解明されたお話だなあ、と感じます。


 表皮細胞のTSLP産生を介しての話だから、ステロイドの内服や注射では、リバウンドが起き難い理由の説明にもなります。
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  ステロイド外用剤の中止をきっかけにTh2が亢進して、TSLP産生の産生も増加してさらにTh2系を活性化する、この状態がステロイド依存であると解釈できます。 
 なぜステロイド外用剤で依存に陥ってしまった患者はあんなに強いリバウンドに見舞われて、抗原や悪化因子を排除しても、なかなか治まらないのか、を説明できます。表皮細胞を介して輪になっているわけですから、いつまでたっても、なかなか静まりません。  
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 また、リバウンドが、ステロイドを外用していなかった周辺部へも拡がって行くメカニズムの説明にもなります。繊維芽細胞で産生されたペリオスチンは、表皮細胞に作用して新たにTSLPを産生させるわけですが、このときに元々の湿疹部位の表皮細胞だけでなく、周辺部の表皮細胞にも作用すると考えられるからです。
 また、ペリオスチンに対する抗体を投与することで、将来的にリバウンドの悪循環を断ち切る、すなわち「ステロイド依存の薬」が開発される可能性は十分にあると思います。  
 以上、簡単ですが、私の考えを記しました。

 私が国立名古屋病院を辞めてちょうど10年になります。
 こういった論文を読むたびに、すこしずつではありますが、ステロイド依存というものが、解明されていくのだなあ、と感慨深いです。
 ・・当時、こういった論文があれば、どんなにか心強かったことだろうなあ。患者たちにはっきりとリバウンドのメカニズムを説明できただろうから。 

追記2)佐賀大学医学部分子医科学教室のHPに「アトピー性皮膚炎モデルマウスの作製ムービー」が掲載されています。
http://www.biomol.med.saga-u.ac.jp/medbiochem/index.php


追記1) 解りやすいように、動画(紙芝居)にしてみました。

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(画像または→こちらをクリック。English versionは→こちら
論文に出てくる「ペリオスチン欠損マウス」では皮膚炎が生じないことなどが、わかりやすく解説されています。  




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