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2010年11月24日の朝日新聞の記事

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【子どものアトピ:2 ステロイド食事 不安絶えず

 札幌市の女性(42)は2005年10月、全身の皮膚に赤みが広がった次男(5)を連れて近くの皮膚科を受診した。医師は「アトピー性皮膚炎かどうか判断できない」としつつ、ステロイドの塗り薬などを処方した。

 なぜ判断できないのか。なのになぜ、ステロイドを出すのか。説明はなかった。でも、こちらから根掘り葉掘り聞ける雰囲気ではなかった。不信感が募り、ステロイドを使わない治療法を探し始めた。 

 11月、漢方と食事療法を中心にした治療に取り組む市内のクリニックに行った。ここで初めて、アトピーと診断された。

 「お母さんは無農薬、無添加の食材で、野菜中心の食事をとってください」。医師はそう指示した。母乳を通した影響を避けるためらしかった。クリニックの方針で、ステロイド剤の使用は中止になった。

 変化はすぐに現れた。ステロイドで抑えこんでいた炎症が再発し、肌が真っ赤に。かゆみで夜、寝付けなくなった。女性と夫が交代であやす日々が始まった。これはステロイドをやめた反動、と思っていた。「いずれ治まる。いまは耐えるしかない」

 次男は耳の周りの皮膚がただれてじゅくじゅくし、人なつっこい笑顔が消えた。ほっぺや耳の前あたりをかきむしった。赤くはらした腕の肌をかき崩さないよう、丸く巻いた紙をギプスのように腕にかぶせてしのいだ。

「このままだと、きっと命にかかわる」。たまらず、別の小児科に駆け込んだ。06年の春になっていた。 「まずは炎症を抑えましょう」。再び処方されたステロイド剤を使うと、症状は改善した。でも、気持ちは「治療の振り出しに戻っただけ。いつまでこれが続くの」。2カ月ほど続けるうち、あせりといらだちが募った。

 そんなころ、アトピーが食事療法でよくなったという体験談が、本やインターネットに出ているのが目にとまった。授乳をやめて離乳食をあげていたころだった。 母乳を飲ませた後、次男の皮膚が真っ赤になったことがある。女性は直前にカニやエビを食べた。食べ物の成分が母乳を通じて伝わり、症状を起こしたのかと不安になった。

 だったら、いまの食事からアトピーに関係しているものを除けば、ステロイドなしで治るかもしれない。そのときは希望の光が見えたように感じた。

 http://megalodon.jp/2010-1124-1521-16/www.asahi.com/health/ikiru/TKY201011240164.html

 昨日の記事で「生後3ヶ月で皮疹が出て、すぐに皮膚科を受診」とあり、これが05年10月のことのようですから、このお子さんは05年7月生まれと思われます。 11月に、1ヶ月ほど?使用していたステロイド外用剤を中止し、

ステロイドで抑えこんでいた炎症が再発し、肌が真っ赤に。かゆみで夜、寝付けなくなった。女性と夫が交代であやす日々が始まった。これはステロイドをやめた反動、と思っていた。「いずれ治まる。いまは耐えるしかない」 

 とあります。これは、昨日記したような理由で、リバウンドではないです。

 耳の周りの皮膚がただれてじゅくじゅくし、人なつっこい笑顔が消えた。ほっぺや耳の前あたりをかきむしった。赤くはらした腕の肌をかき崩さないよう、丸く巻いた紙をギプスのように腕にかぶせてしのいだ。

「人なつっこい笑顔が消えた」とあります。昨日の記事中の写真は生後6月ですから06年1月ころのもので、この文章の頃です。にこにこと笑っています。たぶんですが、笑顔が消えていたのは、ご両親のほうだったのではないかなあ。

「このままだと、きっと命にかかわる」。たまらず、別の小児科に駆け込んだ。06年の春になっていた。

 生後8月(06年3月ころ)の写真が今回添付されています。

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 栄養状態もよさそうだし、わたしの目には、「命にかかわる」状態には見えません。

 ステロイド外用剤によく反応するようです。ステロイド依存やリバウンドに陥っていないからです。

 でも、気持ちは「治療の振り出しに戻っただけ。いつまでこれが続くの」。2カ月ほど続けるうち、あせりといらだちが募った。

 ご両親は、アトピーと闘っていたというよりも、ご自身の内から沸きあがる不安と闘っていた、あるいは、完全に振り回されていた、ということだろうと察します。

 不安をどう処理するか、ステロイドを使うにしろ使わないにしろ、自然治癒までには時間がかかります。それまでをどうやって冷静さと明るさを保つか、ここが大切です。

 ひとつには、林義則記者が記しているように、 

重症患者や家族をしっかり受けとめる療の充や支援策
 は有用でしょう。しかし、それには、行政なり医療機関側の取り組みを待たなければなりません。

 わたしは、それ以上に重要で、ここをご覧になっている皆さんがすぐにも取り組めることを指摘したいと思います。それは、周囲の大人たちが、患者や家族を焦らさないこと、 

「標準治療(あるいは○×治療でもいい)を受ければすぐに良くなるのだから、ちゃんと治してくれる病院に行ってらっしゃい

 と言わないことです。ステロイドを用いた標準治療にしろ、脱ステロイドにしろ、治癒までには時間がかかります。皮疹の出ている患児の親は、一生懸命、模索しています。それを理解し、気遣ってあげてください。

 今回の朝日新聞の取り上げているテーマは、とても微妙です。患児の親御さんが頑張りすぎることがよくない、といった情報発信になってしまったら、親御さんたちは、余計に焦ります。「自分たちがいろいろ手を尽くしていることが、裏目に出ているのだろうか?」と自信を無くすかもしれません。また、頑張らないように努めれば、周囲の大人たちが「○ちゃんのお母さんは何もしないから○ちゃんが良くならないのだ」と言われるでしょう。

 患児の親御さんたちへではなく、その周囲の大人たちへ向けて、暖かく見守ってあげてくださいと発信してほしいと願います。周りのひとたちが「治るには時間がかかるのだから」と、親御さんたちを支えてあげてください。  

 母乳を飲ませた後、次男の皮膚が真っ赤になったことがある。女性は直前にカニやエビを食べた。食べ物の成分が母乳を通じて伝わり、症状を起こしたのかと不安になった。

 これは、昨日記した「悪化因子」のひとつです。重要な発見です。乳幼児の食事性の悪化因子は、このように少し気をつけていれば、明らかなものが多いです。当分は、カニやエビを避けてていたほうが無難でしょう。当分というのは、1年とか2年、3年といった間隔です。いずれ、食べられるようになることが多いです。

 だったら、いまの食事からアトピーに関係しているものを除けば、ステロイドなしで治るかもしれない。

 これは、アイデアとしては、悪くはないのですが、食事性因子というのは、患者によって異なりますから、そこを誤解しないように、くれぐれも無意味な食事制限をしすぎて、栄養失調になるようなことのないように気をつける必要があります。栄養のほうがアトピー対策よりも大切なのはもちろんです。 

 このあとの展開ですが、いろいろ食事制限して発育不良気味になって、成育医療センターの大矢先生あたりのところ行って、食事性因子と思い込んでいた食材をひとつひとつ試して食べさせてみたら意外と食べられた、信頼できるお医者さんと巡り合うことで、ステロイドに対する不信や誤解も無くなって、元気になりました、って感じでではないかなあ。なんで大矢先生かって言うと、こういうマスコミ話に名前出るのいとわない小児科医で、患者の親のストレス受け止めキャラの優しい先生っていうと彼あたりかなあ、って気がするので。まあ、当てっこしてるわけではないので、話半分にしておいてください(違ってたら後日この部分削除します)。大矢先生は名古屋出身で、かなり前ですが国立名古屋病院で一緒に働いていました。最近は標準治療を広める派の講演会などでご活躍のようですが、ステロイドを使いたくないと患者が言ったとしても、叱り付けるような方ではない、と私の昔の印象からは思います。

 ステロイド依存については、どのくらい認識がおありなのだろう?小児科の先生は、依存やリバウンドの認識少ないかた多いです。それは、幼小児でステロイド依存に陥ってしまっているケースが、成人ほど多くないからだと思います(無いわけではない)。むしろ、今回のケースのように、単なる悪化を、離脱後のリバウンドと思い込んでしまう誤解を除く作業のほうが診療現場で多いかもしれません。

 しかし、成人アトピーでステロイド依存になったかたの多くが、小児期、「信頼できる」お医者さんの指示通りに外用した結果であることもまた事実なんですけどね。「信頼できる」お医者さんだと、安心してステロイド使いすぎてしまうかもしれません。もし、そのお医者さんに依存やリバウンドの認識が浅く、警告がなされなければ。

 まあ、それでも、わたしはステロイド依存に陥っていない患児を、ステロイドで抑えながら自然治癒を待ちたいという考え方の親御さんに反対はしません。それは自由であり親の権利です。うまくいけば一番負担無く自然治癒まで持ち込めるでしょう。しかし、自分の子供が、今回のケースの程度のアトピーだったとしたら、わたしはステロイドは使わないでしょうね。依存が怖いですから。

 むしろ軽症であったなら、ステロイド外用剤を利用するかもしれません。軽症で、ときどき塗れば治まる程度なら、依存に陥りにくいでしょうから。(11月24日記)

 

「まずは炎症を抑えましょう」。再び処方されたステロイド剤を使うと、症状は改善した。



moto_tclinic at 11:01│Comments(0)TrackBack(0)