Kelly Pの物語読売新聞記事の担当記者について・その2

プレスクリル誌「ステロイド外用剤のアレルギーと依存」


 フランスのプレスクリル誌は、製薬会社から独立して医薬品の治療的価値を評価する民間市民団体の医薬品情報誌です。イギリスのDrug and Therapeutics Bulletin、アメリカのMedical letterとともに、WHO(世界保健機構)が推薦する3つの医薬品情報誌のひとつでもあります。
HPhttp://english.prescrire.org/en/

のロゴにある 
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Non Merci : No conflicts of interest」およびその下の「No grants, no advertising」の宣言が信頼の証です。製薬会社やその関連財団からの寄付金を受けて活動している患者会もどきの団体や、広告収入に頼っている新聞社の記者のかたがたは、この宣言の意味をもっと考えるべきです。

 そのプレスクリル誌の英語版の20052月号(N75)の記事(フランス語版200410月号の記事の翻訳)のサマリー部分を紹介します

TOPICAL STEROID ALLERGY AND DEPENDENCE   Worsening symptoms or a lack of response to treatment

ステロイド外用剤のアレルギーと依存 

When a topical corticosteroid fails to control a skin condition, the first explanations are usually a wrong diagnosis or inadequate drug potency; however, allergy or dependence should also be considered.

ステロイド外用剤で皮膚疾患をコントロールできないとき、誰もが最初に思いつくことは通常「診断の誤り」もしくは「ステロイドが弱すぎる」である。しかし、「アレルギー」および「依存」も考慮されなければならない。

Contact dermatitis due to a topical corticosteroid is difficult to diagnose as the symptoms are often mixed with those of the underlying skin disease. Allergy to topical corticosteroids can mimick acute eczema or localized acute swelling. The most commonly affected areas are the legs, hands and face.

ステロイド外用剤による接触皮膚炎は、もともとの皮膚疾患と症状が混在してしまうため、診断が困難である。ステロイド外用剤に対するアレルギー(接触皮膚炎)は、急性の湿疹反応または限局した急性の腫脹のように見える。好発部位は下肢、手、顔である。

Risk factors include long term, frequent application of topical steroids by patients with leg ulcers, stasis dermatitis, atopic dermatitis (especially on the hands). The diagnostic performance of skin tests is controversial.

リスク要因としては、下腿潰瘍、うっ滞性皮膚炎、アトピー性皮膚炎(とくに手)へステロイド外用剤の長期頻回使用があげられる。皮膚テストの診断における有用性には議論がある(注:パッチテストが陰性でも否定できないということ)。

Several studies and other lines of evidence point to rare allergic crossreactions to topical corticosteroids, undermining the usefulness of switching to a second topical corticosteroid.

いくつかの研究やエビデンスによって、ステロイド外用剤にはまれに交差反応があることが示されており、そのため別のステロイドに変えても症状が改善しないケースがある。

Sometimes, especially when skin tests are negative, the problem seems to be dependence to the topical corticosteroid rather than allergy.

時に、とくに皮膚テストが陰性の場合には、原因はアレルギーではなくステロイド外用剤への依存であるのかもしれない

In practice, stopping the steroid treatment completely is sometimes the best solution, although this may prove difficult.

 

臨床現場では、ステロイドを完全に中止することが、困難なように思われるものの、最善の選択肢であることがある。

 

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15751172

 

解りやすい考え方だと思うので解説します。

表にすると、

ステロ~1

 こういうことを言っています。

 ガイドライン準拠の標準治療は、上3つのみを考えます。わたしたち脱ステロイドを扱う皮膚科医は、これに「依存」を加えた4つの可能性を考えています。(脱ステロイド療法というのは、何でもかんでもステロイドを止めさせれば治るという考え方だろう、という誤解には、本当に腹が立ちます。)

 「診断の誤り」には、たとえばリンパ系腫瘍の皮膚症状をアトピー性皮膚炎と誤るような例があります(以前プロトピックのところで紹介しました)。病理組織検査や血液検査を繰り返すことで診断を再考します。プレスクリル誌は、通常上の2つのみを考えがちだが、下の2つも考えるべきだ、と言ってます。ですから、わたしたち脱ステロイドを扱う皮膚科医の考え方そのものです。

  

 アレルギー(接触皮膚炎)の鑑別には皮膚テスト(パッチテスト)が有用です。ただしステロイド外用剤の場合には、成分パッチテストでなければ陰性に出てしまうこともあります。これを表にすると下のようになります。

ステロ~1

 一方、より強い別のステロイドを塗ってみると、理論的には下表のようになります。

ステロ~2

二つの表を組み合わせると、 

ステロ~3
 

ということになります。

 この場合分けの表は、見落としをしないために有用です。たとえば、ステロイドでコントロール出来ず、変更してより強いステロイドにしたが効かず、パッチテストでも陰性だ、という場合には、「診断の誤り」「アレルギー」「依存」の3つが考えられます

 この3つを判別する方法は、やはりステロイド中止後の経過です。「診断の誤り」であれば、何ら変化は生じないでしょうし、「アレルギー」であればすみやかに改善します。「依存」であれば、リバウンドを来たしたのちに軽快していくという流れを取るはずです。もっとも「依存」の場合は、皮疹(とくに時間経過)に特徴的な場合があるので、上記の表のような場合分けを考えるまでもなく、脱ステロイドに慣れた皮膚科医であれば、診断確定できる場合も多いですけどね(この皮疹を診ることで一気に診断確定、という妙味に惹かれてわたしは皮膚科医になりました)。

 「ステロイドでコントロール出来ず」→「ステロイドが弱すぎる」→「ステロイドを強める」→「効く」の場合は、「依存」にはあたりませんから、そのままステロイドの強弱・増減で対処しても良いと思いますが、潜在的には「依存」すなわちステロイド外用剤による表皮バリア破壊は進んでいるわけです。どの時点でストップがかけられるべきかは、私にも分かりません。わからないことを、医者が勝手な思い込みで患者に強要するのは良くないと思うので、このような状態の患者に、わたしは、ステロイドをそのまま続けても良いとも言いませんし、止めろとももちろん言いませんでした。各自考え方に応じて、自由行動せよ、という治療方針でした(依存についての警告はします)。無責任なように聞こえるかもしれませんが、わたしはそうは思いません。前にも書きましたが、アルコール中毒に陥らないお酒の飲み方と同じで、警告は必要ですが回避方法の具体的な指示は不能です。肝腎なのは、ステロイドの使い方どうこうではなく、依存に陥ってしまった患者を前にしたとき、そこから逃げないこと、離脱への道筋をたててサポートしてあげること、それが皮膚科医の務めだと考えていました。依存患者の存在を認めない、あるいは依存患者の離脱は診ないという医者より、よほど皮膚科医として責任ある態度だったと今でも思っています。

 もちろん一切使わなければ、依存に陥ることは絶対にないわけですから、最初から「ステロイドは使わないほうがよい」と明言する脱ステロイドの先生もいます。それもひとつのスタンスでしょう。

 依存患者への対応に関しては、脱ステロイドの先生には共通したものがありますが、依存を来たさないためのステロイド外用剤の使用法に関しては、考え方の幅が大きいです。正解が無いからだと思います。


moto_tclinic at 17:35│Comments(0)TrackBack(0)