脱保湿の正当性を支持する論文「塗っても効かない」-ステロイド抵抗性(2)

正しいアトピービジネス

 
Pseudoceramide-Containing Physiological Lipid Mixture Reduces Adverse Effects of Topical Steroids

Allergy Asthma Immunol Res. 2011 April;3(2):96-102.

http://e-aair.org/search.php?where=asummary&id=3_2&code=9999AAIR&type=TYPE2

から無料でDLできます)

Various therapeutic approaches have been suggested for preventing or reducing the adverse effects of topical glucocorticoids, including skin barrier impairment. Previously, we have shown that impairment of skin barrier function by the highest potency topical glucocorticoid, clobetasol 17-propinate (CP), can be partially prevented by co-application of a physiological lipid mixture containing pseudoceramide, free fatty acids, and cholesterol (multi-lamellar emulsion [MLE]). Skin atrophic effects of CP were also partially reduced by MLE. In this study, the preventive effects of MLE on the lowest potency topical glucocorticoid, hydrocortisone (HC), were investigated using animal models.

ステロイド外用剤の副作用(皮膚バリア破壊を含む)を防止するために、様々な治療的アプローチが示唆されている。以前、わたしたちは、最強のステロイド外用剤である17-プロピオン酸クロベタゾール(CP)による皮膚バリア破壊が、偽性セラミド・遊離脂肪酸・コレステロールを含む生理学的な脂肪の混成物(マルチラメラエマルジョン[MLE])の存在下に、部分的にではあるが、防止されることを報告した。CPによる皮膚萎縮もまたMLEによって部分的にではあるが抑制された。今回の研究は、最弱のステロイド外用剤であるハイドロコーチゾン(HC)においても、副作用防止効果があるかを、動物モデルを用いて検証したものである。

 MLEというのは、様々な脂質を組み合わせて、生理的に表皮細胞間に存在するラメラ構造をもった物質に似せて作ったものです。これをステロイド外用に混ぜることで、ステロイドの持つ皮膚(表皮)バリア破という副作用が減したという論文です。 

  まず、MLEを混ぜることで、ステロイドの果が減弱していないかが確認されています。副作用が減っても、ステロイドそのものの果が弱くなってしまっていては意味無いですからね。

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 マウスの耳に刺激物質をつけて、10分後にステロイド外用剤を塗布(左からMLE入り、通常の基剤入り、基剤なし)、6時間後に腫脹の程度を比較したものです。3つに差はありません(MLEによってステロイドの効果は減弱しない)。 

 次に、MLE入りのステロイドと、普通の基剤のステロイドとで、表皮バリア破壊の副作用に差があるか?が確認されています。まず機能的な見地から。
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上はTEWL表皮的水分喪失)の化、下は皮膚表面のPHです。6日間外用した果を見ています。いずれもMLE入りのほうが良い結果でした。 

 またステロイド外用後の皮膚に、テプストリッピング(セロテプを貼ってははがすということを繰り返す)を行い、その前後のTEWLの差を計測するという方法でも確認されています。

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 上は10回のテプストリッピング前後のTEWL化です。MLE入りのほうが減少幅が少なかったです。 

 

 組織的にも確認されています。

 

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左は、MLE入りのステロイドを6日間外用したあとの皮膚、右は通常の基剤のステロイドです。長い矢印はSkin fold thicknessで、短い矢印はepidermal thickness  

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 計測すると、skin fold thicknessは差がありません(上左)が、epidermal thicknessには差が明らかです(上右)。 

 

 表皮細胞の分裂の活さを確認するPCNA染色でも差が確認されました。

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 左は、MLE入りのステロイドを6日間外用したあとの皮膚、右は通常の基のステロイドです。

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上グラフは、MLEを混ぜたほうが、PCNA陽性細胞(茶色の子のようなもの)のが保たれていることを示しています。  

 

 さて、MLEは、このようにステロイド外用による表皮バリア機能の破や表皮萎縮の防止果があります。このMLEはどこで入手できるのでしょうか?論文中には、韓NeoPharmという社から提供を受けたとあります。著者はソウルメディカルセンタHJ Kim先生、共同究者はNeoPharm社のかたと、延世大皮膚科の先生がたのようです。 ソウルメディカルセンタというのはどんなところだろうと、ネットで調べてみたところ、

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 結構大きな合病院のようです。http://www.hospitalmaps.or.kr/hm/frHospital/hospital_view_1.jsp?s_hosp_code=135050 小さな個人病院の院長先生が、自作の工夫した軟膏の優位性を主張した論文かとも思いましたが、そうではなさそうですね。

 また、NeoPharm社のHPも確認してみました。http://neopharm.co.kr/eng/index.php

こちらは、どうもこのMLEを用いたATOPALMというスキンケア用品をアトピー性皮膚炎対策として開している会社のようです

 

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 この構図は、いわゆる「アトピービジネス」の範疇に入ると考えることもできます。

1)ステロイド外用剤の副作用に注目し

2)これと関連した商品を打っている

わけですから。

 しかし、ここまで調べた限りでは、私はこれをいかがわしいものだと感じません。科学的な裏付けを取っているからです。ステロイド外用剤の持つ、負の側面、表皮バリア破壊や皮膚萎縮といった問題を真正面からとらえ、これを少しでも克服した製品を社会に供給しようとする真面目な企業努力のように見えます。

  

 なお、わたしは、今回のブログ記事で、このATOPALMという製品を推奨しますと紹介しているわけでは決してありません(誤解の無いようお願いします)。ATOPALMは要するにセラミド(類似物)配合化粧品なわけで、私の関心は、あくまで、今回の論文で扱われている、MLEを十分量混ぜた場合のステロイド外用剤の副作用軽減効果のほうにあります。化粧品に混ぜられているMLEが何%なのか判らない(通常この種の「飾り成分」の濃度はかなり低い)ので、ATOPALMの化粧品をステロイド外用剤と混ぜて用いても、ステロイド外用剤の副作用が軽減される保証は無いことを付記しておきます。

 ATOPALMの化粧品をステロイド外用剤と併用すれば、ステロイド外用剤の副作用を軽減できるのではないか?と錯覚・期待させやすい点は「アトピービジネス」的だとは思います。「この製品に含まれるMLE濃度では、ステロイド外用剤の副作用を軽減する効果は確認されていません」とか記されていれば一番正直なのでしょうが。

     

 それでも、わたしは、この企業の方向性を評価したいと思います。振り返れば、日本でも、ステロイド依存の問題を正面からとらえ、これを真面目な意味でのビジネスチャンスととらえ、科学的に解明し克服しようという民間企業の努力はありました。このブログでもいくつか紹介しています。

http://steroidwithdrawal.doorblog.jp/archives/1046151.html

http://steroidwithdrawal.doorblog.jp/archives/1046095.html

http://steroidwithdrawal.doorblog.jp/archives/1023229.html

 しかし、それらは、「ステロイド外用剤に依存性はない」という皮膚科学会権威筋の自己弁護的な非協力のため、かき消されてきました。今回紹介した韓国の論文は、ステロイド外用剤のもつ依存性に取り組んだものではありませんが、ステロイド外用剤連用による皮膚(表皮)バリア破壊という問題に、大学・総合病院と企業とが協力して取り組んだものであるという点で、紹介に値すると考えて取り上げた次第です。

 厚労省の研究費をステロイド外用剤の安全性擁護のキャンペーンに流用する日本の皮膚科学会首脳陣の姿勢とはえらい違いです(http://steroidwithdrawal.doorblog.jp/archives/918762.html)。

  

 私は、ときどき「アトピーをステロイドなどの薬剤で抑えることは良くない。生物本来のもつ自然治癒力で治そう。」 という、ステロイド全面反対の自然回帰的な意見の持ち主だと勝手に誤解されことがありますが、そうではありません。治るためなら何でもありの極めて合理的な人間です。「黒い猫でも白い猫でも、ネズミを取る猫は良い猫だ」派です。ステロイド外用剤の場合、依存性・抵抗性がネックになるので、場合によっては中止離脱したほうが賢明な場合もある、という、これまた合理的な考えをしているだけです。

 ステロイド外用剤の持つ依存性・抵抗性を、日本の大学や総合病院の皮膚科医らが、企業とタイアップして、真正面から取り組み、この韓国の論文のように、副作用を軽減する研究を進めることができたらと、心から思います。それこそが、正しいアトピービジネスといえるでしょう。そしてそれは、わたしだけでなく、多くの患者たちの願いでもあるはずです。

 日本でいかがわしいアトピービジネスが無くならないのは、日本の皮膚科医が、正しいアトピービジネスを行うことを怠ってきたからです。



moto_tclinic at 11:18│Comments(0)TrackBack(0)