「脱ステロイド」と「ステロイド忌避」クロフィブラート(PPARαリガンド)の外用は使えるかもしれない

プロアクティブ治療についてのまとめ

 知人の皮膚科の先生がやっているメーリングリストに以下のような投稿がありました。

「昨日患者さんが教えてくれたのですが、「朝のNHKのテレビでステロイド外用でがっちりなおして保湿剤に移行する治療がよい。」との全国放送があったそうです。更にモニター募ってNHKとして記録をとっていくそうです。皆さん何かご存じですか?」

 調べてみると、NHKの「あさイチ」という番組のようで(http://www.nhk.or.jp/asaichi/2011/09/05/01.html)、成育医療センターの大矢先生がご出演なさっていたようです。大矢先生はプロアクティブ治療の研究に熱心な方です。「ステロイド外用でがっちりなおして保湿剤に移行する治療がよい」というのは、「標準治療」の話のように聞こえますが、標準治療とプロアクティブ治療との違い、およびプロアクティブ治療の問題点を一度まとめておきましょう。

 (標準治療の問題点についてはこちら→http://steroidwithdrawal.doorblog.jp/archives/912185.html

A.標準治療とプロアクティブ治療の違い

九州大学皮膚科のHPにある、「標準治療」の図
http://www.kyudai-derm.org/atopy_care/improvement_top.html)を拝借して、これに書き加える形で、「リアクティブ療法」と「プロアクティブ療法」を図示してみました。

図_1_~~1
 
※プロアクティブ治療の再燃の山は、右にずれます(再燃までの間隔が長くなる)。

 上の「アプローチ1」と「アプローチ2」が、「標準治療」です。アプローチ2は、日皮会ガイドライン中の記載炎症症状の鎮静後にステロイド外用薬を中止する際には,急激に中止することなく,症状をみながら漸減あるいは間欠投与を行い徐々に中止する」に忠実に従った場合で、アプローチ1は、漸減あるいは間欠投与を行わなずに中止する場合(ガイドラインには反する)です。
 「アプローチ1がリアクティブ療法で、アプローチ2がプロアクティブ療法の図だ」と誤解する人がいますが、そうではありません。アプローチ2の漸減時のバーの太さを見ればわかります。
 また、プロアクティブ療法では、最初の悪化が収まったあとは、すみやかに維持療法に移行しますが、「標準治療」では、収まったあとも慎重です。寛解導入期の長さや考え方が違います。上記のガイドライン記載文の影響です。
 「リアクティブ治療」は、医療費の高い欧米での従来のやり方です。「プロアクティブ治療」とは、皮疹が収まったあとも、週二回の外用を続けることで、再燃までの間隔を長くしてやろう、それは、結果的に、患者の医療費負担の節減にもなりますよ、という考え方です。
 しかし、日本の現状(アプローチ1またはアプローチ2)とプロアクティブ治療とを比べると、プロアクティブ治療の提唱とは、標準治療よりもステロイドの外用を少なくしよう、週二回だけにしよう、ということとなり、欧米とは逆の話になることが、図からお解りかと思います。

B.プロアクティブ療法の問題点

 まとめると、3つになります。
 
1)最初に連日数週間のステロイド(プロトピック)外用治療で抑えられる患者だけを対象としている(これで抑えられない依存・抵抗性例はプロアクティブ療法の対象外)。
 プロアクティブ治療の寛解導入期に無効・悪化でドロップアウトしてしまう患者は、欧米の論文では成人患者の1割ないし2割、日本では以前ブログで見積もりましたが、2~3割です(http://steroidwithdrawal.doorblog.jp/archives/904972.html)。これらの患者の存在にまったく触れられていない点が、プロアクティブ療法の話におけるトリッキーなところです。まるで全ての患者がプロアクティブ治療でうまくいくかのような印象を与えがちです。
 大矢先生ら、プロアクティブ治療の推進者は、小児科の先生が多いですが、小児では、依存・抵抗性例の頻度が少なく、この問題を軽視しているのが一因でしょう。
 
2)そのあと、寛解維持期には、週二回、皮疹部および過去の皮疹部(現在は無疹部)とにステロイド外用するが、この「現在は無疹部」に外用するという点ばかりが強調されるきらいがある。実は、「週ニ回」のほうが重要であり、あとの5日間は、多少の皮疹があってもステロイドは外用しない。
 に記したように、欧米では医療費が高く、皮疹が軽くなると保湿剤のみで済ますという背景のもと、プロアクティブ療法は考案されました。日本では軽微な皮疹にもステロイドの連日外用が指導されることが多く、背景が異なります。

3)「皮疹が治まった後の無疹部にも、週二回外用を続けたほうが良い」とすると、患者は永久にステロイド外用を続けなければならなくなり、アトピー性皮膚炎のもつ自然治癒傾向と矛盾する。
 これについても、データがあり、先に解説しました(http://steroidwithdrawal.doorblog.jp/archives/905098.html)が、どこかで、皮疹が生じたときのみに外用する「リアクティブ治療」がプロアクティブ治療よりも適切となる時期があるはずです。それが、プロアクティブ治療開始後一年後なのか、二年後なのかが、はっきりしていないです。言い換えると、プロアクティブ治療は、寛解導入期直後には、有用(再燃までの間隔を広げる)なことが確認されていますが、終点がまだ明らかでないのです。

 以上のような問題点はあるものの、プロアクティブ治療は、正しく行われれば、依存や抵抗性に陥りにくいという点で、標準治療よりはよほどましです。週2回という枠に当てはめることによって、だらだらとした連用になりにくいからです。大矢先生らには、依存や抵抗性例という、成人患者では決して稀でないケースにも眼を向けながら、プロアクティブ治療の正しい普及に取り組んでいただきたいと願います。



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