なぜリバウンドはステロイドを外用していなかったところにも出るのか?
コメント欄に以下のようなメッセージを頂きました。
私は体にステロイドを塗りますと 顔には塗らなくてもきれいにアトピー症状が治ります。そしてこのたびプロアクティブ療法をしてみよう、と毎日塗っていた体に2日塗らなかったところ、体には痒みも湿疹も出ませんが顔に赤くて痒い、熱を持った湿疹が出て来ました。2日どうにか空けれたのでまた体に塗ると少しは顔の方も改善されました。これは以前から感じていたので、主治医にも相談しましたら「そういう人いるですよね~」で終わってしまいました。しかし私にすると「ステロイドは外用であってもかなり体に吸収されているのでは?」と危惧してしまいます。ネット上で皮膚科医に相談したこともありますが「ありえない。それなら手に塗って全身に効けばそんな便利なことはないですね(笑)手についたステロイドが顔を触ったことで治るのでは?」でした。しかし最近脱ステ中の方がステロイド入りの目薬をさして全身のアトピーがよくなった方を見つけましたし、やっぱり外用であっても吸収するのでは?と思います。先生のブログほとんどにめをとおしたつもりなのですが、そういう記事が見当たらなかったので、もし何かご存じのことがあればまたいつか記事にしていただけると嬉しいです。 |
この方の疑問に、明快に答えられるだけの知識を残念ながら持ち合わせていないのですが、ヒントとなる論文の心当たりはあります。それは、「体のある箇所での湿疹は、ほかの離れた場所での湿疹の原因となることがある」というもので、これは、裏返せば、ある箇所の湿疹をステロイドで抑えると、離れた場所の湿疹をも抑えられる可能性がある、ということです。こういう現象があることを知っていれば、とくにステロイドの経皮吸収のことを考えなくても、説明は可能です。「体には痒みも湿疹も出ませんが」とありますが、ステロイドで抑えていたくらいですから、まったく皮膚に炎症変化が無いとは考えにくい(ミクロのレベルでは炎症がおきていると思う)し、ステロイドを点眼するということは、目に炎症があったということなので、これを抑えることで遠く離れた皮膚の湿疹が治まることは有り得なくもないです。
自家感作皮膚炎や病巣感染は、こういう考え方の上に成り立っています。
ところで、リバウンドのときには、ステロイドを外用していなかった部位にも、湿疹が拡大していきます。これは、普通に経験されることです。
(http://steroidwithdrawal.doorblog.jp/archives/1047054.html)
それで、考え方の補足として、「体のある箇所での湿疹は、ほかの離れた場所での湿疹の原因となることがある」という現象について記した論文を紹介しておこうと考えました。
1975年の論文です。短いので全文紹介します。ただし少々読みにくいです。とくにメカニズムの考察部分は、1975年当時の知識でなんとかこの現象を解釈しようと無理してる感じです。かなりの意訳ですが、雰囲気だけ読み流してください。
The angry back syndrome: eczema creates eczema Division of Dermatology, The University of British Columbia, Vancouver, B. C, Canada
False positive patch test reactions are common when the skin of the back is hyper-reactive. Such reactions can obscure or invalidate observations of multiple specific sensitivity and of cross-sensitivity to contactants. The pathogenesis of the hyper-reactive skin ('angry back') is discussed and a mechanism postulated for the notion that eczema at certain sites can provoke an eczematous tendency at other sites. If one strong positive patch test reaction is obtained, no credence can be given to any other concomitant 'positive' reactions. All devotees of patch testing may know about 'status eczematicus' but it seems that no body writes about its practical implications. There does not seem to be a definitive published study of this aspect of patch test false positivity although the literature abounds with studies of concomitant cross- sensitivity phenomena which must be suspect as fallacious until the item of concomitant false positivity is rigorously examined. An allegation that there is a conpiracy of silence about the 'angry back' is almost justified. When confronted on a hot summer day with an assortment of juicy positive patch test reactions, possibly biochemically believable, who is going to call the patient back once a month until Christmas and repeat all the 'positive' tests? General considerations Special aspects of patch testing |
「アングリーバック症候群」というのは、たぶん今でも皮膚科の教科書に普通に出てくる語で、本論文は、これをはじめて記述したものです(Mitchell先生が「アングリーバック」という語を初めて使いました)。もっとも現在では、「アングリーバック」というのは、接触皮膚炎の原因検索のためのパッチテストを行う際に、ほとんど全ての反応が陽性に出てしまって、せっかくの検査が台無しになってしまう、ノイズのようなやっかいな現象、くらいにしか認知されていませんが、もともとの論文の趣旨は、上記のように、パッチテストの際の「アングリーバック」は、「体のある箇所での湿疹が、ほかの離れた場所での湿疹の原因となっている例があるようだ」という、臨床観察のメカニズムの解明に役立つものかも知れない、というものでした。
その後、アングリーバック症候群については、1980年代、90年代に散発的な研究がなされたものの、近年では、忘れ去られてしまったように思います。ステロイド外用剤のリバウンドの実験動物モデルは確立されていますが、アングリーバック症候群の動物モデルは聞いたことがありません。したがって、分子生物学的なというか、細かいメカニズムの研究は進んではいませんが、現象としての臨床観察は、このように「Contact Dermatitis」という一流の皮膚科雑誌の論文として残っています。わたしは、リバウンドの際に、ステロイドを外用していなかった部位にも炎症が波及するのは、まだ詳しくは解明されてはいませんが、アングリーバック症候群類似のメカニズムによるのだろうと、考えます。そして、最初に掲げた、ステロイドを塗ると他部位の湿疹が収まる方の疑問も、ステロイドの経皮吸収ではなくて、似たようなメカニズムなのだろうと思います。
Angry back (http://dermnetnz.org/procedures/patch-tests.html より引用)
「アングリーバック症候群」という言葉は、「Steroid addictionのマウスモデル」でも、出てきます。ちょっとややこしい話なので、わかりやすく紙芝居を作ってyoutubeにUPしてみました。
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