1996年の「アトピー性皮膚炎と闘うー世界の治療最前線」90年代のマスコミによる「ステロイドバッシング」とはどんなものだったのか?(1)

90年代のマスコミによる「ステロイドバッシング」とはどんなものだったのか?(2)

 先回(→こちら)の続きです。 

 金沢大学の竹原先生の「アトピービジネス論」によれば、患者のステロイド拒否は、90年代にマスコミがステロイドバッシングを行ったため、だそうです。これを検証するため、手元にある90年代の、アトピー・ステロイド関係のテレビ番組を再確認しています。

 今回紹介するのは、1996年に、中京テレビ(日本テレビ系の東海地方局)のニュースプラス1という報道番組の中で組まれた、「アトピー特集―ステロイド治療を考える」という番組です。地元局であったこともあり、わたしも取材を受けました。この際、当時の私の発言をも再確認しておこうと考えた次第です。

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(画像または→ここをクリックすると動画が始まります)

 まず、一般的な、ステロイドの副作用(皮膚萎縮、紫斑、にきび、酒さ様皮膚炎)が紹介され、ついで、大阪の「アトピーステロイド情報センター」という患者団体が紹介されます。
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 ステロイドの使用を止めるよう、訴え、活動している患者団体が、大阪にあります。会員は800人。ステロイドは本来副腎で作られるホルモンですが、薬に頼っていると、本来の副腎の機能が低下して、ステロイド依存症となり、さらに、恐ろしい事態になってしまうと言うのです。
 「ステロイドが、それでかえってね、悪くしてるから、ずるずるになるとか言ってもう、使っても使っても効かなくなる、たぶん、うん、そういう状態が来ると思います、今の状態だったら。」
 「ステロイドは、あの、一生、十年二十年は、絶対使えない、あの、それはもう目に見えてますしね、だからやっぱりその辺でいつか止めなければならないし、私らが見てる限りでもやっぱりステロイドの離脱症状というのはアトピーなんかとはもう全然違いますよね、やっぱり、もう体もほんとにもうボロボロっていうか、かなり酷いですもんね。だから、やっぱり止めるんやったら早く止めたほうがいいし」

 「ステロイドの使用を止めるよう訴え活動している」というのは、ステロイドバッシングのように見えます。

 しかし、よく考えてください。そう主張しているのは、当時800人の会員を抱えていた患者団体です。「マスコミがステロイドバッシングをして患者がステロイド拒否した」のではなく、患者がステロイドを拒否しているという実態を、マスコミが報道したのです。順序が逆です。

 なおかつ、このあとで、番組は、広島の浜中和子先生を取材して、「ステロイドというのはやっぱり欠かせない薬だと思ってます」という、当時の皮膚科医の常識的なコメントをも載せています。
 ですから、私にはやはり、この番組もまた、竹原先生が言うような「マスコミによるステロイドバッシング」の例とは、感じられません。

 アトピーステロイド情報センターの会の活動が「ステロイドバッシング」であったかどうかは、微妙なところだと思います。バッシングとは、「過剰または根拠のない非難」を言います。この会の主張は、過剰と言えるかもしれませんが、「根拠がない」とまでは言えないからです。根拠とは、この場合、患者一人ひとりの経験(ケースレポート)です。それも一人二人ではありません。EBMの言葉に直すとケースシリーズです。
 また、当時は、ステロイド外用剤を用いた患者の全てが依存・抵抗性に陥るのか、それとも一部の患者だけなのかも、不明でした。わたしも、この点について住吉さんから聞かれたことがありますが「わからない」としか答えられませんでした。
 しかし、そのような患者が続出し、医師も頼りにならない。これはひょっとしたら、とても大変な事態なのかもしれないから、とりあえず、薬の使用を中止して欲しい、と、当時の厚生省に陳情することは(この会は毎年厚生省交渉を繰り返していました)、患者会として、必ずしもおかしな行動ではなかったと思います。

 もし、このような、患者または患者団体からの訴え、苦情・クレームを、単なる「バッシング」と片付けて済ますことが許されるなら、薬の副作用というのは、そのメカニズムが科学的に解明されるまでは、存在しない、ということになってしまうでしょう。
 90年代、ステロイド依存や抵抗性例についてのメカニズムはまったく不明でした。近年、メカニズムがかなり分子生物学的に解明されてきているのは、本ブログで紹介している通りです。

 竹原先生の「アトピービジネス論」には、意図的ではないか?と疑いたくなるほど、当時、患者個人や、患者団体から、このような訴えが続出していたという記述がありません。「悪質なアトピービジネス」があって、これに口実を与えた脱ステロイドを行う皮膚科医がいて、そのため患者がステロイド拒否に陥った」という論旨です。そうではなく、患者個人や、患者団体から、ステロイド依存・抵抗性例についての訴え(クレーム)があり、次いで「アトピービジネス」や一部の皮膚科医による脱ステロイドの実践があり、それをマスコミは報じたのです。

 「患者会」にはいろいろあります。わたしは最近の事情にはまったく疎いのですが、
1)アトピービジネスが仕切っているところ、(日本オムバスの全国アトピー友の会など)
2)製薬企業などからの寄付金を受けて活動している「御用患者会」のようなところ(日本アレルギー友の会など→こちらを参照) 
などもあります。
 1)や2)からは、私は真実の情報は得られないと考えます。言い換えると1)と2)は等価です。スポンサーの意向に反することはしにくいからです。
 当時のアトピーステロイド情報センターに、1)や2)のような背景はありませんでしたから、96年のこの番組の取材は、あくまで中立なものだったと考えます。むしろ、最近、日本アレルギー友の会などが、各種シンポジウムなどに「患者会」として登場することが多いですが、マスコミがこの会を取材する場合には、「本会は製薬会社などからの寄付金を受けて活動しています」と、注意書きを加えるべきだと、私は考えます。

 次に、わたしが登場します。私の発言内容の確認のために文字起こししておきます。
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 「最近問題になってきている、ステロイド皮膚症とか、やめてリバウンドを生ずるとか、そういったことは、あのー、最近の皮膚科の教科書にも、ほとんど記載がないですね。これ、新しい副作用と考えていいと思うんですよ。ステロイドで、強い薬で、抑え続けすぎて、それがために、あのー、あくまであれ、治す薬じゃないですから、抑える薬なんですよね、で、抑えすぎると、貯まってそんな風に爆発してしまうみたいな、そんな感じがあると思うんですよ。」
 「本来は、このアトピー性皮膚炎というのは、あのー自然治癒傾向のある病気なんですよ。一番大切なのはインフォームドコンセントで、何よりも患者教育だと思うんですよ。今非常に情報が混乱してますけれども、その情報を十分に咀嚼して、えー、自分自身の、考えにおいて、いろいろ選択して対処していくだけの、患者側に、そういう教育を受ける機会がないというのが、非常に僕は問題だと思ってます。」

  当たり前ですが、「アトピー性皮膚炎にステロイドは使うべきではない」などと発言してはいません。ステロイド依存・抵抗性例が存在して、それは、これまでの皮膚科の教科書には記されていない、新しい副作用といえるのではないか?と問題提起しています。
 この当時は、今のようにインターネットで文献を簡単に検索できる環境ではなかったですから、診療が終わると、大学の図書館に通って、何かこの問題に関するヒントが無いか?と手作業で調べたものです。図書館の閉まる時刻に再び病院に帰って入院患者を診るという日々でした。
 このブログで紹介している、近年の英語論文は、その頃の私の疑問に一つ一つ答えてくれるものです。とても感慨深いです。



moto_tclinic at 15:42│Comments(0)TrackBack(0)