ステロイドを使用しないアトピー性皮膚炎の経過調査の結果報告ステロイドを用いない6か月調査の研究に参加した患児の写真

私の考えるアトピー性皮膚炎ガイドライン

 

「私の考えるアトピー性皮膚炎ガイドライン」という小文をまとめてみました。英訳して海外の知人の医師に読んでみてもらったところ、反応が良かったので、YOUTUBEにUPしました。ただし、日本語原文そのままだと、ちょっとシニカルで誤解を招きそうな点(とくにまとめの辺り)は、知人のアドバイスに従って若干表現が変わっています。 (下の画像をクリックするとYOUTUBEが開きます)














それから、最初に記しておきますが、成人でステロイド内服で数年かけてリバウンドをやり過ごす話ですが、これは、昔診ていた患者やクロフィブラート軟膏の小規模臨床試験のときの患者が、試行錯誤の上独自にたどり着いていた方法です。私自身は、ステロイドの注射は時にしましたが、内服は、長期連用につながるに違いないと考えて、処方したことはありません。しかし上述の患者の経験を聞くにつれて、そういう成功談もあるのならば選択肢として挙げてもいいと考えて加えました。
私が診療にあたっていた90年代に比べて、今は景気も悪く生きにくい時代だと思います。長期療養がどうしてもできない場合の選択肢の一つになると思います。
 
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私の考えるアトピー性皮膚炎診療ガイドライン
 
アトピー性皮膚炎は、乳幼児期から成人期にわたって罹患しうる病気であり、その診療に当たっては年齢に応じて配慮すべき項目が異なる。したがって、ガイドラインにおいては、アトピー性皮膚炎を自然史的に乳児期から順を追って記述し、要所で診療上のポイントを加筆するという形が良いと思う。
 
乳児期
乳児に保湿剤を用いるべきかについては、その乳児がアトピー性皮膚炎を発症しているのはいないのか(現に湿疹があるのか無いのか)によって異なる。家族歴にアトピーがあり、現在は発症していない場合、皮膚に付着した食物などによる感作を防ぐため、保湿剤を使用したほうがよい(複数のエビデンスがある)。しかしすでに発症してしまっている場合、保湿剤による保護は、環境の乾燥による表皮バリアの成熟化を妨げることになる。
 
ステロイド外用剤に関しては、これを用いなくても6ヵ月後にはかなり多くの患児において軽快または治癒するという事実があるということを忘れてはならない。
この時期、多くの親は患児がアトピー性皮膚炎であることにショックを受け、湿疹を外見上抑え、痒みや不眠を一時的にでも抑えたいと考える。保湿剤やステロイド外用剤はその目的にはかなうだろうが、乳児の表皮細胞はコルチゾール産生能が低下しており、その成熟のためには環境の乾燥や、外部からむやみにステロイドを補充しないことであるいう仮説の観点からは、感染症の徴候に気をつけながらも、基本的にはステロイドに頼らないほうが良い。
 
ただし、保湿剤にしろ、ステロイドにしろ、これらを使用したら自然治癒が望めなくなるというものでもない。従って、具体的には「半年単位で気軽に待ちましょう。保湿剤もステロイドも短期的に抑えるには有効だから、なんらかの理由で使用したければ用いてもいいですよ。しかし一時使用にとどめて連用は避けましょう。」といった指導が適切といえる。診療上のポイントは、心配して悲観的になっている両親から「何が何でも治そう」という思い詰め・囚われを除くことにもある。その意味でも、何もしなくても自然治癒傾向のある病態であることを強調することは重要である。
 
乳児期に重要なのは、保湿剤やステロイドを塗るべきかどうか、ではなく、体重増加が正常に推移しているか、である。食物アレルギーを重視する医師たちは、アレルギー検査や代替食を勧めるし、そうでない医師は何でも食べさせて良いと言うかもしれない。しかし医師たちは実は同じことを言っている。食べられるものを探して体重を増やしなさいということだ。決してアレルギーの疑わしい食品を次から次へと禁止して栄養失調に追い込もうとしているのではない。栄養失調・低体重の何が恐ろしいかと言うと、細菌感染を起こしたときに重篤な敗血症を引き起こすリスクが増えると言う点だ。成長曲線をしっかりとプロットして患児に何を食べさせればいいのかを一緒に考えてくれる小児科医を探すべきである。
 
小児期・思春期
乳幼児のアトピー性皮膚炎は平均30ヶ月すなわち2才半ほどで完治する。しかし治りきらない子もいる。乳児のステロイド依存というのは非常にまれだが、小児期になると珍しくはない。乳児期からステロイド外用剤を塗り続けており、顔の赤みが消えず、中止しようとすると全身がリバウンドを生じるような状況となり、外見的にも肘膝などを中心とする古典的アトピー性皮膚炎の像とは言えなくなる。小児の依存例は、成人よりも離脱の期間が短く、また完全寛解につながりやすいので、このような例に遭遇したら積極的に脱ステロイドを勧めるべきである。
 
一方では、古典的な小児アトピー性皮膚炎そのものも患児もいる。アトピー性皮膚炎の寛解が遷延しているからといって、ステロイド依存に陥っているかと言うと、そうではない。
小児期・思春期の患児において重要なことは、自分がどのような生活環境で悪化するのか?夏に悪化するのか、冬に悪化するのか?動物は関係しているか?旅行や転居によって症状が良くなったり悪くなったりするか?を、確認する作業であろう。なぜなら、そのような、患児にとって湿疹を生じやすい環境を知ることによって、将来の職業・居住地を選択できる時期だからである。成人になってからでは難しいこの作業が、小児期・思春期であれば可能であるし、親はそのような観点から患児をさまざまな環境に連れ出してみるとよい。
悪化要因には、食事性のものもある。また5月ごろの悪化のパターンの患者でしばしば盲点となるペットの毛(とくに猫)のようなものもある。それらは大人になってからでも探すことはできる。しかし、環境に関する悪化要因は、成人して仕事に就いてからでは探索・排除が難しい。
 
食事性の悪化要因というのは、一部の患者においては確かに存在する。それはしばしば、患児がいちばん好んで毎日のように食するものであり、例えばお米を一切絶ってみたら、湿疹が生じなくなった、というようなことで確認できる。乳幼児期においては、何もしなくても自然治癒する傾向が高いし、親が思いつめて栄養失調となり生命の危険を招くこともあるので、食事制限は慎重であるべきと考えるが、思春期・成人となった患者が、理性的に自身の悪化要因が食物にありそうなのか?を確認する作業は有用である。ただし、本当に食物が悪化要因であるケースと言うのは、思春期・成人の場合、決して多くはない。環境系のほうが多い。
 
成人期
成人期のアトピー性皮膚炎には、1)成人になって初めて発症 2)乳幼児期アトピーであり治っていたが、成人になって再発 3)乳幼児期からずっとアトピー、の3パターンがある。そしてそれぞれに、ステロイド依存を併発している場合とそうでない場合とがある。
 
成人のステロイド依存からの離脱は、1)で比較的短期間のステロイド使用の場合は、短期のリバウンドで改善・治癒してしまうこともあるが、多くは数年越しとなる。また、とくに環境系の悪化要因があったとしても、それを確認しにくい、排除しにくいという社会的状況もある。いうまでもなく、患者がステロイド依存ではなく、気がついていない何らかの環境系(あるいは食事性)悪化因子によるアトピー性皮膚炎そのものであった場合には、単にステロイドを絶って年月を重ねることでは解決されない。運良く治癒する場合は、転勤に伴う転居など大きな生活環境の変化が偶然生じた場合である。
 
その一方で、最重症の成人のアトピー性皮膚炎は、ステロイド外用を続けるよりも、中止して経過をみたほうが、少なくとも6か月後の改善率は高い。最重症において脱ステロイドのほうがステロイド外用継続よりも改善率が高いにも関わらず、現実的な仕事・収入の観点から脱ステロイドに踏み切れない、ここがジレンマとなる。
 
このような患者において、最も現実的な対処法は、ステロイドの内服であろう。いうまでもなく、内服は外用よりも全身的な副作用を生じやすい。しかし皮膚の依存は起こしにくい。数年にわたって、外用を断ってステロイド内服で炎症を抑えることで、依存からのリバウンドを調節しつつソフトランディングすることは可能である。問題があるとしたら、精神的な依存とでもいうべきもので、皮膚炎が寛解したあとも、患者は悪化に対する精神的トラウマ・恐怖のために、ステロイド内服を中止する気になりにくい。
 
現在、生物学的製剤など、新しい治療薬が模索されているが、ここに記したステロイドの内服に置き換わることはあり得るだろう。しかし最大の懸念はその費用である。製薬会社が開発・推奨する新薬はその開発費を反映して非常に高価となる。その一方でタール剤やクロフィブラートの外用など既存で安価だが効果も穏やかな抗炎症作用のある薬剤は、利益率の観点から製薬会社に省みられず、研究も進まない。その結果、臨床で用いられにくい。
 
まとめ
上記をまとめると、
  • 乳幼児のアトピー性皮膚炎は、本来、まったく医療介入を行わなくても、ほとんどが自然治癒する疾患である。
  • 思春期・成人発症の初期には、悪化要因を探して、将来の自分に合った生活地・仕事を選ぶ作業が大切である。
  • 成人でステロイド外用剤離脱が困難な場合、離脱からの治癒が遷延する場合には、ステロイド外用剤以外の薬物治療を併用することが現実的だが、患者の経済的負担を考慮しなければならない。
ということになる。
 
患者は、これらの指針が医師の経済的利潤につながりにくいという点に注目する必要がある。不安がる患者や親を前に「何もしなくてもよくなる」と患者に根気よく繰り返し説明することが、医師の労力に見合った対価につながるとは思えないし、悪化要因の探索・排除にはさらに労力がかかる。そもそも患者の生活背景の問題点を診察室での問診だけで解決することが出来るはずもない。
 
こういったことは医療全般に起き得る問題だが、アトピー性皮膚炎においてはとくに顕著である。医師や製薬会社が提供できるサービスには限界がある。患者も医師もそのことを念頭に置きながら、この病態と戦っていくしかない。
アトピー性皮膚炎は自然治癒傾向のある疾患だが、医師にできることは決して多くはない。それが診療ガイドラインの限界でもある。

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moto_tclinic at 10:40│Comments(0)TrackBack(0)