クロフィブラート軟膏の販売始めますアメリカ皮膚科学会(AAD)のアトピー性皮膚炎診療ガイドライン(2014)は自らを「標準治療」ではないと宣言した(その1)

アトピー皮膚のHSD1/2の染色結果

 

 今回の記事は、前知識がないと、ちょっとわかりにくいかもしれません。
 まず→こちら と、→こちら をお読みください。
 
 かいつまんでまとめると、「皮膚(表皮)というのは、自身ステロイドを産生している(ここは事実)。ステロイド依存と言うのは、外用ステロイドを長期間塗り続けることで、表皮のステロイド産生能を低下させてしまうためではないか?」という仮説を、私が立てた、ということです。
 HSD1というのは、表皮細胞がステロイドを産生するときの酵素、HSD2は分解する酵素です。もし上記仮説が正しければ、ステロイド依存の皮膚では、HSD1が低下しているかHSD2が亢進しているはずです。
 それで、健常者2名と、アトピー患者4名(クロフィブラートのときの患者と昔の私の患者)の協力を得て、皮膚を採取して染色してみました。
 
 まず、健常者(私自身と私の母親(80才))。
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HSD-1で染色。上が私で下が母親。母親の方は年齢相応に表皮が萎縮していますが、基底層付近でHSD-1の発現はあります(茶色)。

 
 次にアトピー患者2名。ステロイドを外用していません。
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患者A
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患者B
 A、Bとも、表皮は肥厚し、基底層でのHSD-1の発現は弱いです。ステロイドは表皮を生理的に萎縮させる働きをしているので、「表皮のステロイド産生が低下しているから、表皮が肥厚している」という仮説に合致します。
 
 次に、ステロイドの分解・排出に関係するHSD-2の染色結果です。
 
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 上が私、下が母親です。HSD-1と同じく基底層に活性が強いです。
 アトピー患者では、
 
患者A
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患者B  
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 患者Aでは顆粒層付近、患者Bは基底層付近で、健常人よりよく染まっています(。すなわち、HSD-2の発現が亢進しています。患者Aの真皮内で、強く茶色になっているところは、汗腺で、汗腺ではこのようにHSD-2の発現が強いです(健常人でもそう)。汗腺が、ステロイドを不活化して排出する器官であることを示しています。
 一方、ほかの2人の患者では、HSD-2の亢進はとくにみられませんでした。
 (注)以前紹介した文献で「HSD-2は表皮の上層、顆粒層付近でよく染まる」とほ報告がありました(→こちら)が、患者Aのように、上層で染まる症例もあるのですが、どうも基底層で染まる症例のほうが多いようです。また、ステロイド外用後はHSD-2は表皮全体が染色されるようです(→こちら)。


患者C、ステロイドは使用していない。上はHSD-1、下はHSD-2。
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患者D、ステロイド使用中。上はHSD-1、下はHSD-2。

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患者Cは、HSD-1の発現は低いですが、HSD-2は亢進してはいません。患者Dは、HSD-1、HSD-2とも、健常者とほぼ同じです(HSD-1の低下は見られず、HSD-2の亢進もない。表皮も肥厚していない)。
 
 以上をまとめると、
1 アトピー患者にはHSD-1が低下し、表皮が肥厚している者がいる。
2 1の患者の中には、HSD-2が亢進している者と、そうでない者がいる。

ということになります。
 
 私の仮説を基に判断すると、
1 患者A、B、Cはステロイド依存に陥っている(表皮が自力でステロイドを産生できていない)。
2 患者Cは患者A,Bよりも、依存の程度が軽い。
3 患者Dはステロイド依存に陥っていない。

という解釈になりますが、即断はできません。今回の結果は、あくまで、「HSD-1/2の染色結果は、私の仮説に矛盾はしなかった。」ということであって、私の仮説を証明するものではないからです。
 
 しかし、アトピー皮膚の表皮の肥厚が、HSD-1の活性低下や、HSD-2の亢進と関係していそうだ、という点は、皮膚科学的に興味深いですし、将来的には、ステロイド依存を判別する鍵になるかもしれません。それで、クロフィブラートの臨床試用調査のときと同じように、10人患者を募って、皮膚生検して、症例を集めたと考えました。
 同時に、ヒアルプロテクト2週間外用後の皮膚をも検査して、ヒアルプロテクト外用がHSD-1/2に影響を及ぼすかどうかを確認したいです。
 実は、ヒアルプロテクト外用後は、どうもHSD-2が減弱するようなのです。下に患者A,Bのbefore/afterを示します。
 
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患者A、上は外用前、下はヒアルプロテクト2週間外用後。HSD-2で染色。

    
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患者B,上は外用前、下はヒアルプロテクト2週間外用後。HSD-2で染色。

 
 HSD-1のほうは変化ありませんでした。ヒアルプロテクトの主成分である分子量5~11万のヒアルロン酸は、表皮細胞のCD44というレセプターに結合して分裂・増殖を促しますが、同時にHSD-2の発現を低下させるのかもしれません。アクセルとブレーキを同時にかけるという仕組みで、ありうることです。 

 もうひとつ、ACTHを皮膚に外用して前後の変化を確認する(→こちら)、ということも、行ってみたいです。これも実は、私自身で試行済で、結果としては、表皮厚、PCNA、フィラグリン、HSD-1/2いずれも変化が生じませんでした。しかし、患者においてはまだ試みていませんので、確認したいです。 

 今回、名古屋市内の総合病院に勤務する知人の協力が得られ、その病院の倫理委員会での認証をえました。臨床試験登録も済んでいます。
 協力していただける方は、(株)深谷 052-264-0213までお電話ください。折り返し、同意書などをFAXまたは郵送します。
 ステロイド使用中・不使用を問いませんが(むしろ、半々くらいに集まってくれたほうが望ましい)、両腕にヒアルプロテクトを外用したことが無い方にお願いします。
 具体的な流れは、まず当院(鶴舞公園クリニック→こちら)までお越しいただき、アトピー性皮膚炎であることの視診による確認・ステロイド外用歴の聞き取り・皮膚生検(直径1.5mm、局所麻酔下に行います)を行い、その後2週間の間、片腕にヒアルプロテクト、他側にACTH(1.25 %、コートロシン注射用0.25mgを生理食塩水2mlに溶かしたもの)を1日2回、2週間外用していただき、その後再度皮膚生検を行います。今回は、クロフィブラート軟膏の効果確認と異なり、写真撮影は行いません。時間は30分ほどです。
 患者の側の最大のメリットは、自分の表皮が、HSD1/2に関してどのような状態にあるのか?を確認できることです。例えば、患者Dのような方では、私の仮説にしたがえば、依存に陥っている感じではないので、ただちにステロイドを止める必要は無い、ということになります。
 ご連絡お待ちしておりますm(_ _)m。

 

 私が作成した「ヒアルプロテクト」のショップは(下の画像をクリック)。
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 クロフィブラート軟膏の処方についてはこちら(下の画像をクリック)。
 

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 クロフィブラート軟膏には弱い抗炎症作用があり、ステロイドを使わずに皮膚炎を少しでも抑えたいという方に向いています。論文になっていますし作製も容易なので、出来ればかかりつけのお医者さんに処方をお願いしてみてください。



moto_tclinic at 17:51│Comments(0)TrackBack(0)