中間分子量のヒアルロン酸外用はマウスの実験的アトピー性皮膚炎を抑える中間分子量ヒアルロン酸は酒さにも効きそうだ

クロフィブラート軟膏のその後

 
 現在、2週間の試用で有効と判断された数名の方に長期使用してもらっているのですが、その中の一人から以下のようなメールを頂きました。 
以前は、治験終了後のことが心配でクロフィブラートカプセルを個人輸入できないか色々調べましたが似たような薬はありましたがクロフィブラートはありませんでした。
しかし、久しぶりに調べたらすんなりありました。
先生が軟膏を作成しているのと同じものでしょうか?
http://www.sorashido.com/products/detail.php?product_id=2845
このカプセルと注射器、基材があれば先生がブログで書いている以下の方法で同じものが作成可能でしょうか?
http://steroidwithdrawal.doorblog.jp/archives/17982800.html

値段も(販売価格(税込): 2,550 円で送料1,000円はかかりますがそんなに高くないのでうれしい限りです。
先生のブログでは1カプセル10円程度とありましたが・・・。
治験に参加できなかった人も個人の責任で試すことは出来ると思いました。

 それでOKです。念のため申し添えますと、日本の法律においては、医薬品を個人輸入して個人で使用する分には、まったく規制がありません。ただし、これを日本国内で転売すると違法になります。ですから、クロフィブラート錠剤を個人輸入して軟膏を作って他人に販売することはできません。この点だけは、ご注意ください。
 
 この方を含め、長期使用の方をフォローしていて、クロフィブラート軟膏について判ってきたことを少し記しておきます。最終的には使用試験開始から一年後の今年の8月か9月頃にまとめます。
 
 まず、「効きが悪くなる」ということは無さそうです。むしろ、皆さん使用量は減少傾向にあります。
 その一方で、複数名の方が、急激な悪化に見舞われて中断しました。これは、話を聞くと、どうもクロフィブラートのためではなく、何かほかに強い悪化因子に暴露された結果と考えられました。その悪化が治まった後、再びクロフィブラート軟膏を外用してもらうと、やはり前と同じように効くからです。
 ただ、悪化した際の精神的ダメージはかなり強いようです。もともとステロイド離脱過程、あるいは忌避にあった患者が、一大決心をしてクロフィブラートに賭けたようなところがありますから、無理もありません。
 クロフィブラート軟膏は、その作用機序から、「表皮性炎症」を抑えます。「表皮性」というのは、表皮細胞のサイトカイン放出などに作用するという意味です。リンパ球などの免疫細胞には作用しません。すなわち、アレルギーを抑えません。一方、ステロイドは表皮性炎症とリンパ性(あるいは免疫性)炎症の双方を抑えます。
 したがって、花粉ですとか、アレルギー性の悪化因子の作用に対しては、クロフィブラートは無効と言えます。
 その一方で、表皮性炎症、すなわち、表皮バリア自体の脆弱性による過敏性が関与する湿疹には有効と言えます。
 まとめますと、クロフィブラート軟膏は、弱い、あるいは大きな波としての悪化が無い時期のアトピー性皮膚炎には有効ですが、急激な強い悪化に対してはこれを抑えるだけの力は無さそうです
 私の考えでは、こういった強い悪化時期においてのみステロイド(必ずしも外用とは限らない。内服注射などの短期使用でもよい)を用い、ある程度治まったら、クロフィブラートに移行するのが合理的です。そうは言っても、もちろん、ステロイドというのは現実にどこで使えばいいのか、どこまで使えばいいのかが難しい薬ですから、一切ステロイドは使わないで通す立場・考え方も、それはそれでもちろん有りです。
 
 短期(二週間)のdouble-blind controlled study の結果、有意差は確認されたので、英語論文を書いて投稿していたのですが、先日acceptされた旨通知が届きました。もちろん査読のある皮膚科専門誌です。インパクトファクターは1.5ですから、皮膚科雑誌としては中堅どころでしょう。
“Your manuscript has been reviewed by experts from our editorial board who have recommended acceptance without modification.”と、revisionの要求も無くすんなりと通りました。pilot studyで小規模とはいえ、hotな領域に関する臨床データであったからだと思います。
 考察欄では、しっかりとステロイド依存(steroid addiction)について力説しました。そもそもクロフィブラート軟膏のようなステロイド外用剤よりも効果の弱い外用剤を、なぜあえて今研究する必要があるのか、を説明するのに避けられないですからね。ITSANの活動についても紹介してあります。アメリカ皮膚科学会(ADD)のアトピー性皮膚炎ガイドラインの改訂版の公表は延びに延びて、現在2014年2月が予定されています。それまでに、私の今回の論文が少しでも多くの皮膚科医の眼に触れてくれると良いのですが。
 
 最近、橋下市長が慰安婦問題に触れて物議をかもしていますが、わたしは「ステロイド依存の話にちょっとだけ似てるなあ」と思いました。依存に陥ってしまった患者が元慰安婦にあたります。
 戦時においてレイプ同然の行為というのはあったでしょう。その話が不快だから、国益を損なうから、あるいは兵士全員がそのような行為に関わっていたわけではなくて、ごく一部のことであったから、という理由で、多くの人は話題にすることを避けます。タブーです。
 私たち脱ステロイドに関わる、関わった医師は、例えていうならば心に傷を負った元慰安婦のカウンセラーのようなものです。カウンセラーにとっての関心事は、どうしたら目の前に現実に存在するこの人が元気になってくれるのか?傷が癒えてくれるのか?そこにしかありません。
 よく「脱ステロイドの医師は、治療成績などを集計して学会発表したり、論文報告するのを怠っている」と言われますが、私は少しおかしいと思います。戦場でレイプまがいの暴行を受けた被害者のカウンセラーが、そういう大局的なことに関心を抱くでしょうか?私は、そんなことには関心が無かった、というか、目の前の患者のフォローで忙しくてそれどころではありませんでした。
 いま、こうして脱ステロイドの診療から離れてつくづく思うのは、現場から離れてゆとりがあるからこそ、こういった小規模な臨床試験や英語論文を書くといった作業は出来るのだなあ、ということです。もし、私が、昔、臨床試験や英語論文を書く仕事のほうに関心が強かったら、脱ステロイドは手がけなかったでしょう。
  
 以前、アトピー患者全体のうち、ステロイド依存に陥っている人は成人で1割くらいだろう、と記しました。しかし、たとえ、依存の率が100人に一人、1000人に一人であったとしても、私は良好にコントロールされている99人、999人の患者ではなく、依存患者を中心に診たと思います。なぜなら、率が低ければ低いほど、弱者であるからです。医師と言うのは、弱者にこそ寄り添うべきだ、それが私の根底の考えでした。 
 
 ステロイドで良好にコントロールされている大多数の患者たちにとって、ステロイド依存例の存在の話は、嫌がらせのようにしか聞こえない、できれば黙っていて欲しい、という意見は昔からありました。しかし、私のスタンスからはそれは出来ません。私は10人に一人の、少数の不幸な患者たちのために、これからもステロイド依存に関する情報を発信し続けるでしょう。
 
 写真は、一昨年、ALSOという産科救急の講習を受講したときのものです。助産師さんたちに混ざって、お産の緊急時に、産科医に引き継ぐまでの間に医療従事者として為すべきことを学びます。
    
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 女性もまた、歴史的に男性に対して弱者の立場にありました。戦時における女性の人権を蹂躙する行為は許されるべきではありません。橋下市長の発言について私がどう考えるかをここに記すつもりもありませんが、この問題をタブー視せずに、橋下氏なりの正論でもって語ろうとする姿勢については、私は立派だと感じました。
  
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 わたしが、自分の専門科とはまるで関係のない、産科救急のコースに参加する理由は、医師である限り、いかなる状況に置かれようとも、身近にいる最弱者(この場合は妊婦)に対して、職業的責任を果たしたいと考えるからです。たとえ病気を診る現場からは離れようとも、「医師」としての最低限のスキルを維持するための努力は、医師である限り続けるでしょう。 
 
 医師は、目の前に現れた病者という弱者、少数者を守るために存在します。それが私の基本的な考え方であり、こうしてステロイド依存という病態の存在を訴え続ける理由です。
  
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 私が作成した「ヒアルプロテクト」のショップは(下の画像をクリック)。
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 クロフィブラート軟膏の処方についてはこちら(下の画像をクリック)。  

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 クロフィブラート軟膏には弱い抗炎症作用があり、ステロイドを使わずに皮膚炎を少しでも抑えたいという方に向いています。論文になっていますし作製も容易なので、出来ればかかりつけのお医者さんに処方をお願いしてみてください。


 ヒアルプロテクトの問い合わせで一番多いのは、「使用期限はありますか?」ですが、とくにありません。ヒアルロン酸と言うのは、およそ安定した化合物で、光にも熱にも強いです(超音波処理には弱いが、日常空間でそんな機会はない)。単一成分の水溶液なので配合変化(分離など)も起こりようがありません。たぶんですが、室温で10年くらい置いておいても変化しないと思います。
 
 先回の記事で、Kim先生のマウス実験結果から、ヒアルプロテクトはアトピーの炎症自体を抑える力もあるかもしれない、と記しましたが、上でクロフィブラート軟膏についてコメントしたのと同じく、大きな別の要因による悪化は生じうるし、それを食い止める力までは無いでしょう。仮に何らかの原因で、そういう悪化に見舞われたとしても、過度にショックを受けることなく、ステロイド忌避を続けるでも使用でもいいですから、合理的・冷静に対処してください。落ち着いたらまたヒアルプロテクトの使用を再開すればいいです。クロフィブラートにしろヒアルプロテクトにしろ、軽症期にこつこつと使い続けることで、長い眼でみれば治癒へと導いてくれるはずです(注:現時点での、私の直観です。事例や理論的根拠はまだありません)。 
 
 脱保湿との関係についても質問がありましたが、脱保湿というのは、保湿剤が皮膚の回復を阻害している可能性に注目した対処法です。ヒアルプロテクトは、保湿と言うよりも「皮膚を育てる」といったニュアンスなので、むしろ脱保湿による皮膚の回復を促進すると私は考えます。実際外用してみるとわかりますが、はじめ、ぬるぬるとしていますがすぐに浸透して、さらさらになります。つっぱった感じがするので、その上から別の保湿剤を重ね塗りする方もいるくらいです。保湿効果はあまり強くありません。化粧品として考えたとき、保湿剤(クリーム)というよりは、その前に塗る化粧水に相当します。



moto_tclinic at 09:06│Comments(0)TrackBack(0)