ネオーラル治療中のアトピー性皮膚炎患者はグルコサミンを服用したほうが良さそうだcam_engl氏の「普通に読めば、自分と同じ解釈になる」という思い込み

ステロイド外用による表皮萎縮はヒアルロン酸をつけると予防できそうだ

 
 
 ステロイドを外用すると皮膚は萎縮して薄くなります。これは、個人差とか、アトピー患者か健常者かの問題ではなく、外用によって必ず起きる事実です。
 もっとも、ここでいう「皮膚の萎縮」には、表皮の萎縮真皮の萎縮と両方の意味があります。表皮バリア破壊によって「ステロイド依存(Steroid addiction)」の原因となるのは、表皮の萎縮です(真皮の委縮には可逆的なものと非可逆的なものがあるようです。非可逆的な首のしわにPRP療法を行って改善した話は→こちら)。
 
 ステロイド外用剤による皮膚の萎縮についての研究論文には、エコー(超音波)によって皮膚(すなわち表皮+真皮の和)の厚さを測定しているものがあります。表皮だけの厚さをエコーで測定は出来ません。
  
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 上の図は、
Different skin thinning potential of equipotent medium-strength glucocorticoids.
Korting HC et al. Skin Pharmacol Appl Skin Physiol. 2002 Mar-Apr;15(2):85-91.
 からのもので、健常人に三種類のステロイド外用剤を連日外用してもらい、エコー検査で皮膚の厚さの変化を見たものです。 
 この論文では■のPrednicarbateというステロイド外用剤がもっとも皮膚の萎縮を来たしにくかったという結果です。 
  
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 Prednicarbateは、海外ではDermatopという商品名で流通していますが、日本では未認可のようです。どこかの製薬会社が注目して導入すればいいのにと思いますが、これもまた日本ならではの、厚労省認可・保険薬収載までのコストと、その後の販売価格を考えると、割に合わないという判断なのでしょう。
 
 健康保険診療主体の「標準治療」も、日本どこでも均質な治療を安価平等に受けられるという意味ではたいへん結構なのですが、その一方で、医師は非常に限られた持ち駒での処方を余儀なくされているという無理な構造に、患者も気がつくべきです。現在の日本はもはや、「標準治療=健康保険診療=最善」では決してありません。
 
 もっとも、Dermatopが表皮の萎縮をも少なくしてくれるか、については、データがありません。
  それで、表皮の萎縮を来たしにくいステロイド、あるいは、来たしにくくする方法は無いかと、Pubmedにいろいろキーワードを入れて探していたら、大変に興味深い論文を見つけました。
Inhibition of Putative Hyalurosome Platform in Keratinocytes as a Mechanism for Corticosteroid-Induced Epidermal Atrophy.
Barnes L et al. J Invest Dermatol. 2012 Dec 6. doi: 10.1038/jid.2012.439. [Epub ahead of print]
 
 ヒアルロン酸、それも化粧品材料として入手できそうな、さほど高価ではない分子量5万~40万くらいのもの(HAFi)を外用すると、ステロイド外用による表皮萎縮が抑制されるというものです。
  
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 CPはプロピオン酸クロベタゾール(デルモベート)。マウスの皮膚に一日2回×6日間外用したところ。CP外用部の表皮は明らかに薄くなっているが、HAFiを併用すると、この萎縮が抑制されている。
 
 この論文は多くの実験結果から成っているのですが、とりあえずはしょって要点を紹介します。
  
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 赤いのは表皮細胞で、トゲのようなものは仮足(filopodia)といいます。培養実験です。ステロイド(CP)を添加してやると、仮足の数もサイズも減少していくのがわかります。
 
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 この仮足の付近で何が起きているのかを示したイラストです。
   
 aでは仮足の先端にあるHAS3active(ヒアルロン酸合成酵素、活性型)によって産生されたヒアルロン酸(HA)が、表皮細胞膜に存在するCD44に結合してCDC42に+のシグナルを送っている。CDC42はF-actinを伸ばして仮足を形成するなど、細胞の形態学的な活性化をつかさどっている。
一方、仮足の先端にはEGFR(成長因子のレセプター)があり、ProHB-EGF(成長因子の前駆体)と結合することで、やはりCDC42に+のシグナルを送る。
 
 bはヒアルロン酸合成酵素が、ステロイドの作用によって不活性型(HAS3inactive)になった状態で、仮足は伸びず、CDC42も+のシグナルを受けていない(表皮細胞が不活発になり、萎縮する)。
 
  cでは、ヒアルロン酸合成酵素は不活性型のままだが、外部からのヒアルロン酸刺激によって、CDC42が+のシグナルを受け、仮足が形成される。それによって、成長因子のシグナルも+に働き表皮細胞は活発になる。
 
 だいたい、以上のようなメカニズムで、ステロイド外用による表皮の萎縮は、低分子量の安価なヒアルロン酸外用で予防できるようです。上のイラストの仮足の付近の一連の反応場所は「hyalurosome platform」と呼ばれています。
 
 かなり画期的な話のような気がします・・いずれ、ステロイド外用剤の基剤には、ヒアルロン酸の添加が常識の時代が来るのかもしれません。
 
 ヒアルロン酸というのは、美容・プチ整形でしわに注射するものは、分子量がむちゃくちゃ大きい(だから高価)。だいたい分子量100万くらいのヒアルロン酸を人工的に10万個くらい架橋して粒子状にしてあるので、分子量でいうと、100万×10万ダルトンということになります。これだけ大きいと、代謝されにくく、注射後長期間残存するので、しわや窪みを埋めるのに用いられますが、分子量数十万くらいのヒアルロン酸は、仮に注射しても、体内のヒアルロニダーゼという酵素で1~2日で分解されてしまいます。なので、分子量数十万くらいのヒアルロン酸は、化粧品のうるおい成分としてくらいしか使い道がないと思っていたのですが、こういうデータが出てくると、大変に興味深いです。
 
 ひょっとしたら、ステロイド依存の問題が、ヒアルロン酸併用で解決してしまうかもしれないです。 
 
 ただ、この情報の難点というか、動物実験レベルという点もありますが、ヒアルロン酸を外用することで、アトピーが良くなるわけではないので、塗る意味を実感はしにくいでしょうね・・。 
 そういう意味では「ステロイド外用剤の依存性?何それ?」っていう患者にとってはさっぱり理解できない話かもです。 
 あくまで、依存の存在を知って、それでも仕事や生活のために不本意ながら使用している、っていう方にお勧めです。 
 
(補足) 
 HAFi=分子量5~40万と、HAFs=平均分子量1.1万、HAFl=平均分子量114.9万、とを比較したデータが論文中にあります。
  
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 培養表皮細胞に仮足を作らせる効果をみたものです。HAFiが一番強いです。HAFsは有意差が出ていますが、実際にマウスにデルモベートを外用したときの表皮萎縮を抑制は出来なかったと論文中にあります。
 
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なおかつ、3種類のヒアルロン酸を作用させたあとの培養上清に増加したヒアルロン酸は全てHAFiでした。これは、ヒアルロン酸の刺激によって表皮細胞がHAS3によって自身ヒアルロン酸を作る(正のフィードバックがかかる)ことを意味していますが、その産生されたヒアルロン酸はHAFiであるということです。
 
 ドラッグストアなどで市販されているヒアルロン酸美容液は、問い合わせてみると、大体分子量100万前後のもののようなので、残念ながら、これを外用してもステロイドの表皮萎縮を予防する効果は無さそうです・・。 
 
 キッコーマンバイオケミファが製造している化粧品材料「ヒアルロン酸FCHシリーズ」の中に分子量5~11万の製品(FCH-SU)がありました(→こちら

 現在、キッコーマンに入手可能か問い合わせ中です。もし、入手可能であれば、化粧品製造販売OEM会社に委託して2%水溶液を作成し、私が通販等で小売しようかと考えています。ただ2%水溶液を作製するだけなら簡単ですが、OEM会社に委託するのは、通販などで販売するには「化粧品」として認可を得なければならないし、そのためには化粧品製造販売免許を取得する必要がありますが、それでは費用がかかりすぎて割に合わないからです。
 ヒアルロン酸は化粧品材料なので、クロフィブラートと異なり、対面すなわち診察しなくても世に出せます。クロフィブラートは、医薬品なので、診察抜きで販売すると無診療投薬となってしまい出来ませんでしたが、ヒアルロン酸水溶液なら可能です。 
 ただし、誰かわたしの代わりにやってくれる人いれば、この話お譲りしますし、無償で協力しますよ。コメント欄通じてご連絡ください。たぶん、誰もやらないだろうから、私がやるというだけで、決して利潤を狙ってるわけではないですから。 
 
(追記)
 キッコーマンバイオケミファのFCS-SU(分子量5~11万)は100g包装から購入可能で、これを2%水溶液に小分けすると5L出来て、50mlずつ小分けすると100個になります。小ロットですが、製造してくれそうなOEM会社も目途がついたので、たぶん実現できます。
 
 欲を言うと、Barnes先生の論文のHAFiは→こちらの文献に製造方法が記されているので、これに準じて「大分子量のヒアルロン酸を超音波ホモジェナイズ→カラムクロマトグラフで分画→5~40万を精製」の工程を採りたいところですが、やってくれるところが見つかりません。ご存じの方いらっしゃったらコメント欄通じて教えてください。
 
 また、製品が出来上がりましたら、ステロイド外用治療中のかたに試用していただいて、その前後で皮膚を2~3mm採取して、表皮の厚さを比較してみたいと考えています。ステロイドで薄くなっている皮膚に厚みが出るはずです。また、このブログで募集しようと考えていますが、先回、クロフィブラート試用の際に20人集まるまでに2か月くらいかかったので、今回はいまから予約受け付けます。コメント欄通じてご応募ください。
 条件は、1)名古屋の私のクリニックに2回(2週間くらい挟んで)来れること。
2)ステロイド外用剤使用中の患者で、湿疹は治まっているが、皮膚が薄くなってきてるような気がして心配だという方(ステロイドできれいになってはいるが、皮膚が白く薄く、静脈が青く浮き出て見えるようなタイプ)。
 です。費用は一切かかりません。交通費はご負担ください。よろしくお願いします。


moto_tclinic at 10:25│Comments(0)TrackBack(0)