コールタールがアトピー性皮膚炎に作用するメカニズムステロイド外用による表皮萎縮はヒアルロン酸をつけると予防できそうだ

ネオーラル治療中のアトピー性皮膚炎患者はグルコサミンを服用したほうが良さそうだ



 ネオーラル(シクロスポリンA)の話は、何回か書きました(→
こちらこちらこちらこちらこちら)。
 
 結構ややこしい話ですが、簡単におさらいしますと、
 
1 中止後のリバウンドは起こりうる(→こちら)。
2 血中濃度(トラフ値)は高いのはもちろんいけないが、低すぎる(3~30ng/ml)とIgEが上昇することがある(→
こちら)。そのメカニズムはTh2系の活性化のほかにB細胞への直接作用が考えられる。
 
 以上の2点があまり知られていない盲点と言えます。
 
 2は1の原因である可能性があります。飲んだり飲まなかったりは一番いけない。ここがステロイドとの大きな違いです。トラフ値(最後に服薬してから十分な時間経過したあとの血中濃度)が30以上150以下(あるいは200以下、クレアチニン濃度を参照しながら判断する)に入るように十分に気をつけなければなりません。
 
 さて、それを前提として、「低濃度シクロスポリンA療法」というものがあります。
 
 ここでいう「低濃度」とは、2 mg/kg/dayを言います。この投与量だとトラフ値は33–149 ng/mlくらいとなります(Low-dose cyclosporine A therapy increases the regulatory T cell population in patients with atopic dermatitis. Brandt C Allergy. 2009 Nov;64(11):1588-96)。
 
 ネオーラルの添付文書には、「通常、成人にはシクロスポリンとして1日量3mg/kgを1日2回に分けて経口投与する。なお、症状により適宜増減するが1日量5mg/kgを超えないこと」とあります。参考までに、上記論文によれば、4–5 mg/kg/dayのときのトラフ値は165–501 ng/mlです。
 
 何が言いたいかというと「『低濃度シクロスポリンA療法』といっても、トラフ値が30を切ってはいけない、それよりは多めだが、現在の添付文書上の使用量よりは少なめということですよ」、ということを、まずは強調しておきたいわけです。すごく重要なことですからね。
 
 低濃度シクロスポリンA療法(要するに2 mg/kg/day法)においても、重症アトピー性皮膚炎の寛解は得られるようで、上記のBrandt先生の論文はそれらの患者においてTreg(制御性T細胞)の出現率を調べたものです。
 Tregというのは、Th1やTh2など、エフェクターT細胞と呼ばれるものを、全て抑えるT細胞です。
  
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ということで、「低濃度シクロスポリンA療法(2 mg/kg/day法)」の臨床的有効性が確認され、なおかつ、そのメカニズムはTregを増加させるためのようだということがわかってきています。
 
 
ここまでが、前振りです。
 
 韓国にKim先生という方がいて、グルコサミン(ぐるぐるぐるぐるグルコサミン」のあれです)の研究をしていました。 
  
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  最初、大量のグルコサミンをアトピーマウスの腹腔に注射したところ、グルコサミン単独で皮膚炎が治まったので、次に経口投与で試してみました。

 しかし経口投与では、十分に血中濃度が上がらないためか、マウスのアトピーは改善しませんでした。
 Kim先生はあきらめず、マウスにグルコサミンを食べさせるのみならず、FK506(プロトピックのことです)を注射して相乗効果をみてみました。すると、グルコサミン投与によってFK506の効果が増幅されました。
 勢い付いたKim先生は次に、シクロスポリンAの、臨床効果が出ない(皮膚炎が改善しない)少量内服投与に、グルコサミンの内服を加えると言う試みをしてみました。すると、シクロスポリンA単独では皮膚炎が改善しない少量投与でも、グルコサミンを同時投与すると皮膚炎が改善したのです。
 なおかつ、Tregを調べてみると、臨床効果と同じように、シクロスポリン少量投与、グルコサミン単独投与のどちらも変化が無かったのに、同時投与するとはっきりとTregが増加していました。
 
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Kim先生が所属するDongguk University Ilsan Hospital(東国大学一山病院) ソウル北東の京畿道高陽市(キョンギド、コヤンシ)にあります。

 この論文の結果は、マウスを使った動物実験ではありますが、すぐに臨床応用が可能です。グルコサミンはサプリとしていくらでも入手できるし、ネオーラルと併用してはいけない、という理由もないですからね。
 
 ただし、Kim先生が実験で用いた「低濃度」とBrandt先生の「低濃度シクロスポリンA療法」とは違います。ここちょっと誤解というかこんがらがりやすいところだと思うので注意してください。 
  Kim先生の「低濃度」だと、トラフ値30未満になって、B細胞の直接活性化(IgEの上昇)が起こりえます。
 Brandt先生の「低濃度シクロスポリンA療法」はおすすめですが、この量では臨床効果が出ない、という患者も中にはいるでしょう。そういう方は、グルコサミンを服用してみるとよい。シクロスポリンを増やして腎機能低下しないかハラハラするより、ずっといいです。
 Kim先生の論文ではグルコサミンは500mg/kg投与されています。マウスの投与量を人間に簡単に換算するには15で割ればいいはずですから、33.3mg/kg、すなわち体重50kgの人で1666mgです。アマゾンで探したら、ヤクルトのグルコサミンが1粒250mgです(→
こちら)から、これを一日6~7錠飲めばいいです。
 
 まとめると、ネオーラルで治療しようという人は、2013年2月時点でもっとも理にかなった方法は、低濃度シクロスポリンA療法(2 mg/kg/day法)」+グルコサミン服用、です。
 
 ネオーラルを上手に活用して、ステロイドのリバウンドを切り抜ける、やり過ごす、時間をかせぐ、というのは有りだと、私は考えます(→
こちら)。ネオーラルはステロイドのように表皮バリアを破壊しませんからね。ネオーラルで抑えてステロイドを使わなければその間、表皮が回復するでしょう。
 
 「低濃度シクロスポリンA療法(2 mg/kg/day法)」+グルコサミン服用による脱ステロイドは、私が現役だったら、ちょっとやってみたい気がします。こういう「色んな点に気を遣いながら上手にやらなければうまくいかない」っぽい仕事は、医者として少しワクワクします。 
  
 念のため注意ですが、ネオーラルを飲んでない人は、グルコサミンを飲んでも、アトピーが治まるというデータはないですよ。むしろKim先生のマウス実験は無効を示唆します。 
 ただし、ステロイドやプロトピックを使用中の人は、ひょっとしたらTh2系へのシフトが抑えられて、依存の悪循環防止に働くかもしれません(これは全くの仮説です)。
 Kim先生が、ステロイドやプロトピックの外用マウスモデルでグルコサミンに相乗効果があるかどうか確認してくれるといいんですけどね。 
  
 Kim先生の論文は→
こちら。 
Mechanism underlying the effect of combined therapy using glucosamine and low-dose cyclosporine A on the development of atopic dermatitis-like skin lesions in NC/Nga mice. Kim CH, Int Immunopharmacol. 2013 Jan 22;15(2):424-432
 
 図表を少し引用します。
  
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 CsAはシクロスポリンA、Gluはグルコサミン。
 
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各種サイトカイン。
 
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CD4+CD25+Tcells=Tregです。



moto_tclinic at 12:27│Comments(0)TrackBack(0)