cam_engl氏のブログの誤り・その5コールタールがアトピー性皮膚炎に作用するメカニズム

cam_engl氏の「脱ステロイドの弊害」は無能な皮膚科医の逃げ口上に過ぎない

 


氏の論理展開の誤り・その1(依存とドーパミン神経系についてのコメントから) 
 
   cam_engl氏がブログのコメントを追記した(→こちら) 。 
  
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 氏のブログ(文章)は興味深い。何が興味深いかというと、医者は専門知識があるので医学的なことを理解しやすいが、だからといって論理的に読んだり考えたりしているのでは無い、ということが、非常によく解るからだ。 
  
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 私には、質問者の仮説には「全く根拠が無い」とは読めない。質問者は、ドーパミン神経系について仮説を立てるには十分な背景を提示している。
 質問者は、自説が仮説であることを前提としたうえで、その仮説を否定するような材料がもしあるのなら示してほしい、それが無いうちは、自説は仮説としては成立しているのだから、否定(棄却)はできない、ということを主張している。
 「単純に中止しにくい心理が働くというだけであり、実際にはやめようと思えばやめられる。はじめから、依存とは言えないのだ」 というcam_engl氏の主張は、氏は気がついていないようだが、自明とは言えない。すなわちこれもまた仮説なのである。
 それにも関わらず、cam_engl氏は、「あなたの仮説にはまったく根拠が無いからもう書くな」と返答している。
 
 これでは、医学以前に、科学、いや単純に論理として成立しない。
 
 ※この質問者はたまたま私と面識のある方で、高度な理系の研究機関に所属する科学者
です。
 
 私がcam_engl氏の非論理的な思考をあえて指摘するのは、氏の「ステロイド依存」についての考え方が、まったく同じ構造であるからだ。私たちは医師は、医学部に入った時点では、理系であり、論理・科学を志向していたと思う。しかし、現実の医学の世界は、かならずしも割り切れないことが多い。そういう中で、真に論理的な態度と言うものを、氏は忘れてしまったのではないだろうか?その点に気が付いてほしい。  
  
追記 このあと、 
  
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というコメントが入った。このpasserという人は、cam_engl氏があまりにも堂々と「単純に中止しにくい心理が働くというだけであり、実際にはやめようと思えばやめられる。はじめから、依存とは言えないのだ」と記しているため、これが、質問者 の「仮説」と等価であることに気がついていない。そこでこれ幸いに cam_engl氏が、 
 
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と返している。こうなると、論理(科学)ではなく、ディベートの世界だ。自分の主張を謙虚に「仮説であるが」と切り出した方が押される、声の大きい者の勝ち、ということで、悲しいことだが、医者の世界、とくに臨床医学の学会では往々にしてある。cam_engl氏は、いつの間にか、それが当たり前だと思い込んでしまったのだろう。他の自然科学の分野の研究者から見ると、さぞかし幼稚さに驚き呆れることと思う。 
 
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 ところで、質問者の仮説に有利な材料を、すこし調べてみたので、紹介しておく。ただし、これらは、あくまで仮説の補強材料に過ぎず、証明には程遠い。もっとも、この証明がなされたところで、得られるものは「ステロイド外用剤依存の『依存』という表現が適正か」に寄与するだけのことなので、あまり役立つような気もしないが・・。
 
 一つは、パチンコでフィーバーしたときの、血中ドーパミン濃度を測定したもので、心理的な「依存」とよばれるものには、こういった生理学的な変容を実は伴っているのではないか?という論文だ(→こちら)。  
 
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 パチンコで大開放、すなわちフィーバースタート(FS)とともに、被検者のノルアドレナリン(NE)は急上昇し、フィーバーエンド(FE)時にはドーパミン(DA)が上昇している。脳内で同じことが起きればフィーバーの終わりに快感がもたらされる

 
 もう一つは、副腎皮質ステロイドというのは、薬物依存の形成に大きくかかわっているようだ、という研究だ。すなわち、動物実験で、副腎除去やステロイドレセプターのアンタゴニストを投与すると、薬物依存行動が抑制される(→こちらこちら)。
   
 湿疹にステロイドを外用すると、痒みがおさまる。これは不快感から解放されるという意味で「快感」と言っていい。
高血圧の薬や、糖尿病のインスリンでは、服薬によってこのような「快感」は得られない。だから、ドーパミンは出ないだろう。
 しかし、ステロイド外用後にはパチンコのフィーバー同様、ドーパミンが放出されている可能性はある。
 これに加えて、外用によって、多少なりとも血中ステロイド濃度は上昇するだろうから、より依存形成に働くのではないか?これは、「仮説」レベルでは成立する。
 
 あくまで「仮説」なので、証明するためには、人工的にアレルギー性皮膚炎を惹起させた動物にステロイドを外用して、その前後の血中あるいは脳内のドーパミン濃度を測るなどといったモデルを考えなければならない。・・・そこまでして証明する価値のある仮説か?というと、私は疑問に思う。なぜなら、依存に陥ったら、これは止めるしか、治療法は無いのであって、証明されることによって、治療法が変化することもないからだ。
  
 とにかく、cam_engl氏には、まず医者としての知識に奢ることなく、謙虚に文章を読み、論理的に物事を考えるということから、再出発してほしい。そうでなければ、議論が議論にならない。
 
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氏の論理展開の誤り・その2(脱ステロイドのメリットとデメリット??)  
 
 以上を記しているうちに、また氏がブログを更新した(→こちら)。
 
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 何度でも、何度でも記すが、脱ステロイドとは、治療法ではなく、副作用報告である。
 
 氏の上記主張は、副作用が現に生じている患者に「副作用が起きていますが、ここで薬を止めると、また別の有害事象が起きる可能性があります。薬を止めるにあたっては慎重でなければなりません。」と説いているように読める(1)。この文章自体には問題はない。
 
 氏が、薬が効いていて未だ副作用を生じていない患者に「薬の副作用が生じていないのに中断するなどという馬鹿な真似はおやめなさい」と警告をするというならわかる(2)。
 
 氏は、「ステロイド外用は依存しない」とまず主張している。それならば、すべての患者に(2)のように警告・主張すべきだ。でなければ、論理的に矛盾する。
 
 「どんな方法にも、必ずメリットとデメリットがあります」という文言は何を意味するのだろう?脱ステロイドにもメリットがあると氏は考えるということか?では、そのメリットは、どのようなもので、それはなぜ生じるのか?
 
 百歩譲って(1)のような氏の主張を認めることとして、氏がなすべきは、具体的にどのような場合に、薬剤の中止を断念すべきかという情報提供でなければならない。私はそれを、たとえば、小児の脱水症や敗血症、低栄養などで情報提供してきた(→こちらこちらこちら)。氏のブログ記事の内容では単に患者を怖がらせるだけではないのか?
 
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「脱ステロイドの弊害」の羊頭狗肉   
 
 cam_engl氏が、上の記事にリンク先を追加した(→こちら
。 
 
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 乳幼児の脱水症についての私の解説は→こちら
 低蛋白血症・成長障害については→こちら
 敗血症の合併症については→こちら
  
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 これは、引用論文に氏が誤った解釈を加えている。「脱ステロイドを放置すると食物アレルギー発症のリスクが高くなる」などという報告は無い(→こちら)。
 
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  これは双方控訴して和解になったはずだ。すなわち判決は結局確定しなかった。
  
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 これも論文を曲解している。元論文は別に脱ステロイドをしていた患者の副腎機能を測定したものではない。ステロイド治療中の患者を2群に分けて、副腎機能と重症度およびステロイド外用量の相関をみたものだ。脱ステロイドした患者では、一般に副腎機能は亢進している。
 当然だが、ステロイド離脱症候群を起こすような副腎不全は、ステロイド外用剤の長期連用の結果として起きる(→こちら)。ステロイド忌避患者では起こらない。
 
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 STSSを脱ステロイドが原因とした幸田医師の誤報には、本当に迷惑したものだ(→こちら)。いまの時代にこの文献をSTSSについてよく調べもせず引用する医師がいるとは思わなかった。
 「脱ステロイド中の患者さんが、感染症を合併して死亡に至ったケース」については→
こちらに記した。問題点は脱ステロイドではなく、敗血症の初期症状に気がつかずに医療機関を受診しなかった点にある。
 
 眼の合併症についても同様だ(→
こちら)。
 アトピー性皮膚炎患者は、ステロイド使用・非使用を問わず、眼科合併症が生じうる。どちらかが発症率が有意に高いという報告はない。
 
 以上、氏の指摘する「脱ステロイドの弊害」という文章中の誤りを指摘した。
 
 この際、はっきりと言わせていただくが、
 

全身管理能力の無い皮膚科医、リスク管理意識の無い皮膚科医が多すぎる。

 
  氏は、眼科の合併症を指摘するが、自分の診ているアトピー性皮膚炎患者に、眼科合併症の初期症状を説明して、定期的な眼科受診を薦めているか?
 敗血症や脱水症の初期対応を誤らないだけの、全身管理能力はあるか?そのスキルを維持するための自己学習を怠っていないか?医師としての基本だ。それが出来ていないから、安易にステロイドでお茶を濁してその場を凌ぐのだ。
 
 cam_engl氏の「脱ステロイドの弊害」は、そのような能力やリスク意識の低い皮膚科医が、アトピー性皮膚炎患者を診療するに当たって、見落としてしまいやすいポイントを羅列しただけだ
 表題は、「脱ステロイドの弊害」ではなく「皮膚科医がアトピー性皮膚炎患者を診るにあたって、肝に銘じるべきこと」のほうがふさわしい。 ステロイド治療・非治療の問題ではないからだ。これを、脱ステロイドのせいにしようというのは、逃げ口上に過ぎない。盗人猛々しいとはこのことだ。
  
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氏の論理展開の誤り・その3(「脱ステロイドの定義」の独りよがり)
 
 cam_engl氏は、上と同じページで「脱ステロイドの定義」について記している。
  
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 氏はここで「脱ステロイド」を独自に定義している。独自にというのは、通常「脱ステロイド」というのは、副作用が生じてきたときに、依存性(ステロイドの場合、抗炎症効果を併せ持つため止めにくいこと)にあがらって、これを中止することを言うからだ。これは私の定義ではない。原先生や玉置先生などの先駆者たちがそのような意味で用い始めた。
  
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 氏の定義においては「脱ステロイド=患者さんがステロイド外用を使わないという選択をすること」であるから、確かに氏の定義においては、脱ステロイドはステロイド外用の副作用への対応ではない
 そのあとの3行は、氏が、ステロイド外用の「依存性」を一切認めないという立場から書いている。しかし、実際にはステロイドには依存性がある。だから「脱」が使われる。
 この時点で氏の論理は破綻している。なぜなら「脱ステロイド=患者さんがステロイド外用を使わないという選択をすること」という氏の定義は、氏の考えに従えば「脱」の使用法が不適切だからだ。
 「患者さんがステロイド外用を使わないという選択をすること」は、ステロイド不使用、ステロイド忌避、などの言葉が適当であって「脱」をつけるべきではないし、必要性もない。 
   
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 何をひとりで不思議がっているのか知らないが、英語で脱ステロイドはSteroid withdrawalである。中国語では、撤离激素という(撤离=withdrawal 激素=ホルモン)。ステロイド中止後のリバウンドは「激素撤离后的反跳现象」であり、ステロイド依存は「激素依赖」(依存=依頼)で、ステロイド皮膚症は激素依赖性皮炎である。「全言語で」って何だ?氏はいったい何様のつもりなのだろう?


moto_tclinic at 14:07│Comments(0)TrackBack(0)