古江論文は「19%でコントロール不良」の原因は「ステロイド外用量が少なかったため」と考察しているか?cam_engl氏のブログの誤り・その2

「アトピー性皮膚炎 -脱ステロイド・脱ステの恐怖・依存という嘘-」というブログ記事中の誤り



 先回あるブログ(皮膚科医?→こちら)の記事中の、論文の読み違いを指摘したところ(→こちら)、その記事に「追記」という形で反論があった。

 
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 この方は、まだ「WilsonやMunro&Cliftの論文」を読んでいないと思う。読めば、「同じ研究のデザイン」とか「比較しやすい過去の論文」などという問題ではなく、完全なご本人の勘違い(古江2003論文の読み違い)ということが解るからだ。
 その確認もせずに、脊髄反射的にこのような追記というか反論をブログにUPするという姿勢はいかがなものだろうか? 古江2003論文中の 
   
The amounts of topical steroids applied were much less than those reported by Wilson et al. and Munro and Clift. 
   
という下りは、このcam_englという方が勝手に考えたように、「本来コントロールできる人たちが、きちんとした外用を行わないため、コントロール不良群の割合が高まっている」という意味の「少ない」ではなく、「副腎抑制を起こす量よりははるかに少ない」という意味の「少ない」である。
 
 古江論文を「都合よく利用している方達の手法に、不愉快さを感じると同時に、あきれている次第」なのは、私のほうだ。
 
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 これも詭弁だ。患者は、6ヶ月間に処方された軟膏を、日数で割った少量を毎日塗っていたとでも言いたいのだろうか?
この論文で外用量が少なかったとしたら、以下の状況が考えられる。 
  
1 患者には既にステロイド外用剤の副作用(必ずしも依存や抵抗性とは限らない。皮膚萎縮や毛細血管拡張でも良い)が出ており、これ以上の処方はためらわれた。 
  
2 患者に初診時大量のステロイド外用剤の処方を行ってみたが、副作用(上と同じ)が出現したため、追加処方がためらわれた。 
  
 私には、ほかの状況は考え付かない。ステロイド忌避のために患者が処方された軟膏を実際には使っていなかったのなら、次に受診したときに担当医は、皮疹が改善していないのを見て、もっと強い軟膏が大量に必要と考えて、処方量は逆に増えただろう。この研究のデザインにおいて「患者のステロイド忌避のためにステロイド使用量が少なかった」という状況は起きようが無い。 
  
 こんな現場感覚も持ち合わせていないとは、もしこのcam_englという方が皮膚科医であったとしたら、あきれた話である。
 医者でなければ仕方がない。現場感覚がわからないのは当然だ。この際によく学んでほしい。


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 追記
 
 上記ブログ主は、「論文の引用2」に対する、深谷先生の反論について」という記事を書いてさらに反論をしている(→こちら)。
 なので、さらに反論しておく。
 
 その前に、ステロイド外用剤の効果と副作用について、イメージ図でまとめた。
 まず、通常の「皮膚萎縮・毛細血管拡張」などの古典的副作用。
  
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 Aでは副作用は出ていない。ステロイド外用剤は有用である。Bは副作用は出ているが、ステロイドによる効果のメリットのほうが上回る状態で、Cは副作用のデメリットの方が大きい状態を示す。
 Aの状態でステロイドを忌避する患者がいたとしたら、これは誤解なので、医師は説明するべきだ。Cではステロイド外用剤からの離脱が絶対的に必要だが、Bは微妙である。医師と患者が話し合って、個々の患者にとって最善の道を探すことになるだろう。
 
 cam_engl氏(先生?)のブログのコメント欄から引用する。
  
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これは、BまたはCの状態を意味する。
 cam_engl氏は下のように回答している。

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  にきびは、ステロイドの副作用として有り得る(ステロイドざ瘡)。また、酒さ様皮膚炎の症状の一部は、にきび様に見える。
 cam_engl氏の回答を読む限り、Cの状態をまったく想定していない。ここが問題だ。
 質問の方がCの状態にあるならば、ステロイド外用剤からの離脱が必要となり、併存するアトピー性皮膚炎に対しては、ステロイドとは別の治療法が必要となる。
 
 一方、依存・抵抗性といった副作用だが、イメージ図は下のようになる。
  
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 これも、上図と同じことで、Aの状態では、ステロイドを忌避する患者には、依存や抵抗性の状態にはないから、ステロイド外用剤を用いるという選択肢もあることを、はっきりと説明するべきである。
 ただし選択権は患者にあるし、患者がステロイドによる治療を希望しない場合は、他の方法で医師は対応すべきだ。非ステ治療希望という理由で診療を拒絶してはならない。
 
 ちなみに、この点については古江先生も少なくとも1997年時点では同じ見解を記している。
 ステロイド外用剤の適応と非適応 古江増隆ほか 日皮会誌:107巻13号(平成9年12月臨時増刊号)p1684-1685
  
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 さて、問題はBにある。通常の使用量でコン

トロールが難しく、減量すれば再燃する。しかし、このままステロイド外用を続ければ、依存へとつながりかねない。そのようなケースでどう対処するかだ。
 
 最初に戻って、cam_engl氏の「反論」を見てみよう。
  
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 別に矛盾したことを言ってはいない。前段では、Bの状態において、医師が患者の意向を聞いて、これ以上の処方を控えることがあるだろう、ということを言っている。そのような患者でさらにステロイド外用剤を処方すれば、短期的にはコントロール良好群の比率が増えるだろう。しかし長期的にはCが増える。
 だから「ステロイド忌避ではなく、依存・リバウンド恐怖のような心理」と書いている。
 
 後段は、「古江先生は、この論文において、患者はすべてAである(依存・抵抗性例は存在しない)と結論付けてはいない」と書いただけのことだ。
 
 古江先生は論文上では、依存・抵抗性例の存在を否定してはいないが、佐藤先生の学会発表時のフロアからの発言からは、脱ステロイドには反対なようである(→こちら)。それなら、論文にそうはっきりと記せばいいようなものだが、それはなさらない。信用していいのか悪いのか、判らない方だと、私は感じる。  
 その一方で、毎年厚労省から数千万円の研究費を受取り、その多くを、九州大学の患者向けアトピー性皮膚炎解説ページの製作・メンテナンスに使用してもいる。これは「研究費」の使われ方としては問題ではないか?ということは既に記した(→こちら)。

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追々記
  cam_engl氏がブログ記事を更新した(→こちら びっくりした。 
  
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 どうして、こういう論文の読み方が出来るのだろう??? 
 
 
 この論文は、無料で全文が読める(→こちら)。 この論文中には、脱ステロイド(steroid withdrawal)はおろか、ステロイド(steroid)という単語は一回も出てこない。ステロイドを用いずとも、保湿剤の使用で、食物アレルギーを予防できる可能性については、既に片岡先生が示している(→こちら)。  
  
  このcam_englという人は、相当頭が悪いのだと思う。たぶん、医師であり、専門知識を有しているので、医学論文を読むにあたって、普通の人よりは理解しやすいので、自分は論文を読めると思い込んでいるのかもしれないが、そもそも、文章を論理的に読み取るという能力に欠けている。   
 
 たぶん、私のこのブログ、今書いているこの文章も、正しくは伝わらないだろう。
 
 
  cam_engl氏は、自分の文章読解力が低いことを自覚して、論文や、ほかの人の書いた文章を、謙虚に読む習慣をまず身につけるべきだ。これは、皮肉や中傷ではなく、真面目な気持ちで心からそう思う。別に、医者というのは、論文が読めないから、臨床能力が劣るというものではない。人間には向き不向きがある。
 



moto_tclinic at 23:54│Comments(0)TrackBack(0)