ケース15から20のまとめインタール(クロモグリク酸)の外用も効くかもしれない

アトピー患者の首のしわの美容皮膚科的治療について(PRP療法)


 前に、アトピー患者の「眼周りのたるみの美容外科手術」について記しました(→こちら)が、最近、PRP療法(Platelet Rich Plasma)療法という方法で、アトピー患者、とくに脱ステロイド後に残ってしまった小じわを改善できたケースがあったので、情報提供の意味で記します。
 
 宣伝じゃないですよ。アトピー患者、とくに脱ステの方々が、今の時代に、経済的に大変なことは、承知しています。いつか、余裕のお金が出来たら、こういう方法もあるんだ、という希望にはつながるのではないかと考えて記します。
  
 宣伝ではないのですが、この「PRP療法」、もしやってみたいということであれば、多少遠方で交通費が出ても、今のところは、うちでやったほうが無難だと私は思います。というのは、血小板の調整方法がまったくまちまちで、薬剤の成長因子を混ぜたり(→こちら)、一次凝集の結果ほとんど血小板の含まれてない液を注射されてまったく効果が出なかったり(→こちら)という現状であるからです。美容外科の自由診療の世界は、アトピーの保険診療の世界とは別の意味で玉石混交です。 
 上に記した眼周りの美容外科手術なんかは、よほど外れは無いですから、関心のある方は、近場で相談すればいいと思います。(参考までにうちのクリニックの料金表は→こちら。健康保険は利きません。) 
 
 もし、皮膚科の先生で、この施術を自分のクリニックでやってみたい、という方いらっしゃったら、見学はいつでもOKです。一から丁寧に指導します。
 ただし、脱ステロイドに一定の理解を示し、診療実績もある先生に限ります。ステロイド出すだけの外来やってる先生が、自由診療に参入しようというのを手助けする気はないです。 
 脱ステロイドを真面目にやってる先生の、外来の収益性の乏しさを改善するには、お役に立てるかもです。アトピー患者だけではなく、アンチエイジング希望のお客さんに施術できますから。 

 
 さて、この方は、昔の知り合いの先生から、「アトピーは(脱ステ後)落ち着いてきたのだが、首のしわが苦になるようだ。先生の美容の領域のノウハウで、何か出来ることは無いだろうか?」と紹介されての来院です。
 
PRP施術前
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2ヶ月後
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PRP療法というのは、どういう施術かというと、まず、自分自身の血液から血小板という成分を取り出します(採血は30mlくらい)。これを濃縮したものを、小じわのあたり打ってやると、だいたい1~2ヵ月後から張りが出てきて、小じわが改善するというもので、アンチエイジングの手法です。
 私自身も(今年53歳になります)これやっています(自分で自分の顔にチクチクと注射する)。施術前後の写真がHPにUPしてあります(→こちら)。
 
 血小板が、なぜ小じわを減らして張りを持たせるかというと、血小板から放出されるPDGFなどの各種成長因子の働きです。皮膚には、繊維芽細胞という、コラーゲンを作ってくれる職人さんのような細胞がいるのですが、PDGF等は、この細胞を刺激・活性化します。いったんPDGFで活性化された繊維芽細胞は、その後数ヶ月コラーゲンの産生を続けます(autocrine機構といって、自分自身で成長因子を出すことにより、活性化が維持される)。
 
 解りやすいように、漫画を描いてみました。
 
名称未~1

名称未~2
 
  
 少し美容のことに詳しい方は、ヒアルロン酸、あるいはコラーゲンの注射というのを聞いたことがあると思います。これらと血小板(PRP療法)との違いは、
 
1) ヒアルロン酸やコラーゲン注射は、打った直後に打った部位だけが膨らみとなることによって、しわを消す。
 
 分子量が大きいので、周辺に拡散しにくいです。ですから、打つ人(術者)の技量に大きく左右されるし、上の写真のような細かい小じわには、向きません。法令線など、大きめのしわのボリュームを出すのに用います。血小板から放出される成長因子は、分子量が小さいので、注射部位から同心円状に広く拡散します。
 
2) ヒアルロン酸やコラーゲンは、注射直後がボリュームのピークで、その後半年から一年で吸収分解されますが、PRP療法によって、自己繊維芽細胞が作り出すコラーゲンは、まったくの自己組織なので、持ちが長い(数年と考えられている)。 
 
 ただし、結果が出るまでには、1~2ヶ月かかります。「繊維芽三郎」おじさんが、せっせとコラーゲンを紡ぐのですが、毎日毎日の仕事は少しづつで、結果がたまるまでに時間がかかるということです。
 
 アトピー性皮膚炎で、どうして小じわが生じるかですが、これは多分、ステロイドが関係していると思います。
 以前文献を引用して示しましたが(→こちら)、ステロイド外用は、真皮の繊維芽細胞を抑制し、真皮は萎縮します(皮膚が薄くなる)。ステロイド離脱後は、回復しますが、たぶん、この回復の過程で、繊維芽細胞のコラーゲン産生が追いつかないか、分布的なばらつきが生じるのではないかと思います。
 繊維芽細胞それ自体はあるのですから、これをPRPで活性化してやると、肌理(きめ)の回復が得られるということではないかと考えます。
 アトピー性皮膚炎それ自体では、真皮の委縮は起こりません。ステロイド外用で真皮の委縮を病理学的に確認した論文は多々ありますが、アトピー性皮膚炎自体による真皮の委縮の報告はないです。ですから、アトピー性皮膚炎それ自体がどんなに酷くても、ステロイドの長期連用が無ければ、理論上、真皮は小じわを残さず回復するはずです。年月の経過による加齢の影響はありますが。 
 

 老化による首の「鳥肌状になった皮膚」のPRP療法の改善のbefore/afterの写真(→こちら)と、比べてみてください。
 
加齢による首の皮膚へのPRPの効果
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アトピーの首のしわに対するPRPの効果
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 加齢のほうは、皮膚付属器(汗線や毛嚢など)を残して(だからブツブツに見える)、その間の真皮が萎縮していますが、アトピーの首の場合は、皮溝と皮丘との差が増強されることによって小じわが目立っている感じです。真皮(コラーゲン)産生(回復)の、分布的ばらつきによる小じわであると考える所以です。PRPの作用により、全体的に均質にコラーゲンの産生が促されたことによって、両者とも改善しています。
 
 PRPは、一回注射すると、数ヶ月間繊維芽細胞を活性化させますが、一回に注射できる範囲は限られるし、量も不十分な可能性がありますから、まず一回やってみて、反応がよければ、2ヶ月間隔くらいで数回、繰り返すとよいと思います(上の写真は、一回のみの施術です)。
 


moto_tclinic at 16:48│Comments(0)TrackBack(0)