AVANDIA(ロシグリタゾン, PPARγリガンド)軟膏の作り方ケース1のその後

クロフィブラート無効例のその後と対処(その2)

 ケース3(→こちら)の方からメールで連絡がありました。
 リバウンドの流れ(悪化)の中でクロフィブラートの試用に参加され、無効だった方です。最初の二週間が白色ワセリンであり、このとき既に悪化傾向であったので、クロフィブラートが合わなかったのでは無さそうだ、と判定しました。
 その後、お電話で様子をお聞きしたところ、クロフィブラート軟膏中止後も悪化の波は治まらず、ステロイド内服を開始したとのことでした。
 
 ブログ、欠かさず読ませていただいております。エマルジョンスプレーや今回のavandiaのお話も興味深く読ませていただいていました。
 こちらとしても協力出来ることならば、力になりたいと常々考えています。
 ただ、現在、全身の湿疹がなかなか落ち着いて来ません。
 以前ご報告した時はステロイド内服をしていたのですが、プレドニゾロンを一日1錠から、9月末には完全に中止しました。今は全身どこにもステロイドを使っておりません。
 中止直後、はげしいリバウンドがあったのですが1,2日でおさまり、全身楽になりこれならいいペースで回復するか、と思ったものの、そこから浸出液はやや増え痛みも減らず、やや悪化?という印象さえある感じです。
 軟膏やオイルといったものは今まったく使っておらず、試してみることは出来ると思うのですが、状態が落ち着かず一日での変化も大きいため、もう少し落ち着いたらご連絡しよう、と考えていました。
 乾燥しぽつぽつとした丘疹のところに塗るのならまだしも、面積がひろがったびらん状のところに何かを塗ったりするのがあまり気が進まない、というのも少しありました。(しかし、先生が薦めるならば試してみようという気にも簡単になってしまいそうですが)。
 ステロイド内服は全身楽になったのですが、内服中からも浸出液は多くなっているかもしれない、と思ってはいました。     
 中止直後は全身からどっと浸出液が増えた、という印象です。ただ内服開始直後から痛みはかなり楽になり、発熱もかなり治まったとは思います。ただこれは、ステロイド飲み始め時期に抗生物質を飲み始めた(抗生物質は1週間程度で止めた)からかもしれません。
 個人的な印象ではステロイドは炎症を抑えてくれてかなり楽にしてくれるものの、同時に皮膚萎縮はおさまらず逆に憎悪し、浸出液は炎症とは別に増えステロイド中止後もその傾向が収まらず脱ステロイド全体のようにじっくり時間をかけなければならないのかな、という感じをもちました。ステロイドをやめてじわじわと痛みが強くなってきているように感じています。
 とりあえず現在の状況のご報告だけさせていただきます。
 先生のブログをこれからも拝見させていただきます。心より応援する者です。
   
 応援ありがとうございます。私はブログ記事中で、彼に、私の考えるところの「上策・中策・下策」の三つの道を示しました(→こちら)、彼は最初中策をとったのですが、上策に変更したようです。
 3回目の診察から2週間後、クロフィブラートのエマルジョンの試用開始について電話してみたのですが、このとき既にステロイド内服を始めていたので、「それでは、ある程度落ち着いて、内服も切れて、試用できそうだということになったら、よろしければご連絡ください」とお伝えしました。その後の経過報告のメールです。
 上記の彼のメールから、私が読み取ることは、
「内服一錠で、反応するのか。ということは、それほど強いリバウンドではなさそうだ。」
です。
 普通、内服一錠のステロイドで、リバウンドというのは反応しません。焼け石に水です。また、彼のリバウンドのパターンは、「タイプ2の紅斑融合型」(→こちら)ですから、ステロイド離脱後の過敏性の亢進した皮膚に、何らかの悪化因子が加わって生じている可能性が高いと思います。
 この場合の「悪化因子」は、ケース1で問題としているようなアレルゲン(→こちら)ではなくて、本当に些細な微量なこと(たとえば軟膏による刺激もそう)なので、あまり深刻に排除を試みなくても、年単位ですがゆっくりと反応しなくなることが多いです。
 逆に、ある一定の年数を超えて、なお強い反応を示すようであれば、これは、悪化因子探しをしなければどうしようもないです(ケース1はその可能性が高い)。ケース3の場合は、外用歴25年で離脱後2年ですから、もう少し経過を見ていいと判断します。
 ケース3の彼は、ステロイド一錠内服中止後の再燃を、「内服によるリバウンド」と心配しているのかもしれませんが、単に内服する前の状態に戻っただけのことだと私は思います。
 
 1983年に須貝先生が、「ステロイド外用剤依存からの離脱」と題して記した文章中に、「顔面のステロイド皮膚症では一過性にステロイドの全身投与を行うほうがよいようだ」と記しています(→こちら)が、ここでの「ステロイド全身投与」は、私の感覚では、内服に換算すると一日3~6錠くらいです。
 ちなみに副腎皮質ステロイドの錠剤というのは、種類にかかわらず、一錠あたりの力価がほぼ同じに換算されているので、錠数で病勢を示せます。プレドニゾロンは一錠5mgでリンデロンは一錠0.5mgですが、両者はほぼ同じ効果ということです。
 ですから、全身のリバウンドが「一錠で反応する」というのは、悪いニュースではないです。また、中止後悪化するというのも、これはむしろ、内服ステロイド一錠で反応していることの証左と考えれば、結構なことです。
 
 内服ステロイドには、別の意味の落とし穴もあります。それは処方を受けたあとは、「患者の手の届くところにある」ために、そのあと、年余にわたる連用になりやすいという点です。
 半年、一年、二年、三年と内服が続けば、外用剤による依存・リバウンドとは別の、普通に認識されている「ステロイドの長期連用の副作用」が問題となってきます。易感染性・糖尿病・骨粗鬆症・・等々です。
 そのため、私は昔は、こういう場合には、ケナコルト(トリアムシノロン)筋注で、しのいでいました。ケナコルトは一回の注射が40mgで内服10錠分に当たります。通常、注射したあと一ヶ月くらいは炎症を抑えます。
 なぜ、注射が良いと考えたかというと、注射は内服と違って患者の手元に無いので、上記のようなずるずるとした連用に陥らないからです。実際、たいていの方は一回、多い方でも数回で、それ以降は注射によるリバウンドの一時押さえを希望する人はいませんでした。
 アトピー性皮膚炎にステロイド注射?!という皮膚科医の方、ケナコルトA筋注用の添付文書見直してみてください。「湿疹・皮膚炎群」というのは、効能効果欄に記載されています。連用でなければおかしな使い方ではありません。依存性が疑われるにも関わらず、あくまで外用にこだわる最近の風潮のほうが余程おかしいです。
 
 このあたりの私の考え方は、昔から、ぶれていません。1999年に著した「ステロイド依存」(→こちら)から一部を引用します。ステロイドの注射による一時押さえにしろ、あくまで、こちらからの情報提供の上でそれを選択する患者にのみ使用します。
   
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声を大にして言いたいのですが、ステロイドを使わずに乗り切ることを選んだ外用剤依存患者(当時はそういう患者が非常に多かった)に対しては、外用も内服も注射も一切無しで診ていくべきです。
 緊急・救急の場合はその限りではありませんが(たとえば長期内服後中止による急性副腎不全)、そのような局面は、皮膚科では決して多くはありません。
 むしろ、そういう切り捨てられかねない患者、行き場を無くしてしまいそうな患者こそが、私たちが医師であるならば真に対応しなければならない患者たちです。だから私は「『私の治療方針に従わない以上診ることはできない』と叱りつける皮膚科医を憎む」のです。
 
 今回のクロフィブラートの試用の件でも、似たことが言えます。   
 今回、「クロフィブラートが無効」と判定された方々は、がっかりしていることでしょう。そういう時にこそ、医師は必要なのだと私は考えます。だから、こうして私なりに色々記してフォローしています。
 次の手はあるし、それが駄目でも、また明日誰かが何か新しいことを思いつくかもしれない。希望を伝え、そこに至るまでのつなぎとして存在する、それが医師が果たすべき役割です。   
 常に、少数、あるいは、見放されかねない不安を抱く患者たちがいないか気をつけて、最優先に配慮すべきだ、ということです。
 
 さて、話を戻して、ステロイド外用剤で強いリバウンドを経験した患者の一部には、私の上記解説とはまったく別個に、たぶん経験的直観的だと思いますが、少量内服を続ける人もいます。  
 
「外用はこりごり、御免だが、内服は良いような気がする。理論的には、内服のほうが副作用が強いことは理解している。自分でも理屈のつけようがないが、とにかく自分には内服のほうが向いている」  
 
という結論に至る患者です。もちろん、入院や療養を続けられれば、内服にしろ使いたくないのはやまやまだがです。生活があり、仕事を続けるためにです。
 ケース10の方もそうです(→こちら)。クロフィブラートの試用を行う以前から、悪化時には内服ステロイドの一時的使用でしのいできました。
 彼の場合は、ステロイド離脱してずいぶんたつので、悪化時のみであれば、ステロイド外用でも良いようにも思われますが、内服ステロイドを処方してくれるクリニックを探して、毎回わざわざ新幹線で遠方まで行っています。
 先日、嘆きメールが来ました(元メールが見つからないので、私の記憶です)。
 
  本日、いつも内服ステロイドを処方してもらっているクリニック(注:皮膚科専門医です、私のことではありません)を受診したところ、ステロイド外用をすすめられました。
 ステロイド外用忌避を続けるという患者の希望というのは尊重してはもらえないものなのでしょうか?・・・
  
 
彼の考えは解らなくはないのです。ステロイド外用剤で依存をきたしやすい人というのは確かにいます。たとえば、ケース20(→こちら)も、そういうタイプでしょう。彼の現在の皮疹は、数年ぶりに今年の5月から3か月ほど用いたステロイド外用剤によるリバウンドが絡んでいると思います。
 
 その一方で、ステロイド忌避の方の中には、実際にはステロイド依存の経験がなく、ステロイド外用剤で良好にコントロール可能な性質の皮膚であるにも関わらず、思い込みで、忌避を続けている方もいます(→こちら)。
 そういう方が、ある日、思い切ってステロイド外用剤を使ってみたら意外に良好にコントロールできたとします。「これまで続けていた『脱ステロイド』は何だったんだ??」という懐疑、ひいては、私たち脱ステロイドの医師全般に対する「逆恨み」にもつながりかねません。お互いにとって不幸なことなので、長期間ステロイド忌避を続けている方は、本当に自分の皮膚がステロイドで依存を起こしやすいタイプなのか?を一度確認する意味で、ステロイド外用剤の再使用にトライすることは、良いことだと思います。
 ただし、それによってふたたびリバウンドを起こしてしまうことも考えられるので、ある程度生活にゆとりがある時期のほうがいいでしょう。ケース10の方は、今回、仕事が忙しくなりそうで一時的に調子をよくしたいからという意味での内服希望であったので、そんな仕事が忙しくなりそうな時期に、わざわざ実験的なことをする必要はないですから、今まで通り、短期間内服で良いと思います。
 
 また、明らかに以前、ステロイド外用剤による強い依存をきたしたことがある、ということが確定的なケース(たとえばケース20)は、これは、外用剤忌避のままでよいと思います。
 
 次にケース4の方(→こちら)のその後です。彼は、クロフィブラート軟膏が無効で、その後エマルジョンを4週間ほど試みていただいたのですが、改善は見られませんでした。ですから、この方の場合は、クロフィブラートに反応しないことが確定といえます。
 それで、先回記した(→こちら)ロシグリタゾン外用剤の試用をすすめて、同意されましたので、本日から開始しました。2週間後またいらっしゃるので、結果をまた報告します。
 
 ケース3の方、ケース10の方、および、クロフィブラートを2週間試用の時点では改善がみられず、もう2週間延長使用して確認中のケース14の方、ケース4の方の結果を待っていてください。彼がロシグリタゾンに反応してくれるようであれば、朗報です。
 もし、ロシグリタゾンに反応が悪い場合、次はエパデール(EPA)で外用剤を作ってみます(→こちら)。せっかくの御縁なので、当方としてはできる限りの知恵を絞ってみます。よろしくお付き合いください。
 


moto_tclinic at 23:54│Comments(0)TrackBack(0)