アトピー性皮膚炎の方の美容外科手術手湿疹から始まるリバウンド(ステロイド皮膚症)

クロフィブラート軟膏―ケース5,7,8のその後、および軟膏作成法について

 
 
 現在、クロフィブラート軟膏「奏効」と判定され、長期試用に入った方は4人です。ケース1(→こちらこちらこちら)、ケース2(→こちらこちら)の方は既に記しました。 
  ケース7とケース8についてまとめます。
  
 ケース7の方の血液検査値は下のようです。  

 

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TARC415823871648
IgE203001980017400

 順調に低下しています。皮疹の改善に一致しています。
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休薬後一週間ほどで、皮疹が再燃してきました。ケース1の方が3日、ケース2の方は2週間後も再燃なしでしたから、この中間になります。 
 
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 ケース8の方の血液検査の結果は下のようです。 
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TARC982869390
IgE136001300014500
 
 こちらもTARCは低下傾向です。皮疹の改善にも一致します。
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休薬後、一週間ほどで、再燃してきました。ただし、ケース7と同じく、0週(外用前)よりは良いです。
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ケース7とケース8は良く似たタイプです。たぶん、お二人とも、自分に似ている患者に会ったことは無いだろうと察しますが、特殊なパターンでも何でもなく、「これぞまさにステロイド皮膚症」という皮疹です。岐阜の多羅尾先生が、HPに掲げている(→こちら)ものと同じで、全身(手のひらと足の裏は除く)に皮膚萎縮と慢性の皮膚炎があり、本来のアトピー性皮膚炎だけでは説明のつかない、ステロイド依存・リバウンドで脚色された病像です。
 経過は非常にゆっくりで、私も昔、このタイプは本当に治るのだろうか?と気弱になったことがありますが、3年5年10年単位でゆっくりと回復します。良くなったあとは、ケース10(→こちら)の方のような感じになります。多少、皮膚の萎縮や色素沈着・脱失が残るものの、なんとか本来のアトピー性皮膚炎まで戻るか、あるいは完全治癒します。
 このタイプは、ステロイド外用で再コントロールしようとしても無理です。そもそも皮疹面積が90%を超えますから、一回の外用量だけでも相当です。なおかつ、古典的な(依存に陥っていない)アトピーであれば数日で治まりますが、そもそも治まりにくいし、減量すればまたすぐ皮膚炎が出てきます。ステロイド長期連用による皮膚萎縮が根底にあるからです。大学病院などを受診すれば、シクロスポリンなどの免疫抑制剤内服を勧められるでしょうが、皮膚以外は健康人であるのに、なぜそこまで副作用のリスクが大きい薬剤の世話にならなければならないのか?(ケース7、8ともに、仕事に就いていて、家庭も持っています)、と、患者は疑問に感じます。そもそも医者がどんなに言葉を濁しても、自分の皮膚の症状が長期にわたるステロイド外用剤連用の後遺症らしい、ということは、患者自身が直観的に確信しています。
 こういうタイプでクロフィブラートが効いてくれそうだということは、心強いです。誰よりも、こういう患者の診療に当たっていた昔の私自身に教えてあげたいです、ほんとに。
 
 ケース7、ケース8の方々の長期経過の観察方針ですが、まず3ヶ月間は、徹底的にクロフィブラートを外用してみてください、とお願いしました。そのあと、休薬します。休薬後、再燃までの期間が、今回は1週間でしたが、3ヵ月後には、10日とか2週間に伸びてくれていたら、しめたものです。そこから、また3ヶ月外用して、また休薬、を繰り返して、確認しながら一年間追いたいと考えます。
 
 さて、ところで、ケース8の方の左右の肩あたりを比べると、右肩(向かって左)のほうに、赤い点のような掻破痕が多いです。
 左肩と右肩の写真を下に並べます。 

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 これは、感染症です。ウイルス性(カポジ水痘様発疹症)か、細菌性(毛嚢炎様のとびひ)の始まりか、まだ判然としません。
 拡大すると、下図のように、
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 掻破痕を伴う丘疹で、ウイルス性の特徴である小水疱も、細菌性の特徴である膿疱も、まだ出来ていません。しかし、この方、お子さんが軽いアトピーがあるのですが、その子にも同じ時期から同じような発疹が出ているそうです。
 
1) 身近にいるアトピーの人に似た発疹が出ている
2) 分布の左右差が著明
3) 個疹が、均一に散布(ほぼ等間隔で規則正しい)
 
 といった視診から、私たち皮膚科医は、感染症(おそらくウイルス性)と診断します。
 治療としては、ウイルス性でこの程度の軽症のものであれば、何もしなくても自然経過で落ち着きます。二次的に細菌感染を併発してくることがあるので、抗生物質を服用しておくと無難です(化膿したり発熱したりしない)。皮膚の消毒も有効なので、以前紹介したイソジンや強酸性水を用いるとよいです(→こちら)。とくに、強酸性水生成器は、昔と違ってデッドストックが5万円ほどで売られているようなので、アトピーのお子さんのいる家庭では常備されても損は無いです。
 ウイルス性の場合、幼小児で初感染の場合は、かなり見た目が酷くなりますので(治るのも早いが)、小児科を受診して、医師の判断で、抗ウイルス剤や抗生物質の処方を受けるとよいでしょう。その際、ステロイド外用剤使用の是非についての議論に陥って、小児科の先生とぎくしゃくした関係にならないように留意してください。口答えせず「はい、はい」と神妙に上手にやりすごすことです(→「ステロイドを用いない乳幼児のアトピー性皮膚炎治療にあたって気をつけるべきこと」)

 
 次に、ケース5(→こちら)の方のその後です。
 
 この方は、クロフィブラート軟膏が奏効せず、問診から、ひょっとしたら原因が米食にあるのかもしれない(一人暮らしで米をあまり食べなかった時には、すっかり治まっていた)可能性が浮かび上がりました。ステロイド外用剤の使用に抵抗は無く、むしろ、依存に陥っていないのなら使用したい、とのことでした。実際経過からも皮疹からも、依存ではなかったので、ロコイド軟膏5gとフルメタ軟膏5gを差し上げました。
 試験中と、一ヵ月後(ステロイド外用+お米断ち後)の写真が下です。

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  この方の皮疹面積は、顔・首・わき・ひざ裏など、合計で6~7%です。1FTUの換算で概算すると、一回の外用に3~3.5g使用します。差し上げたステロイド外用剤は計10gですから、一ヶ月の間に3日ほどの外用、やや控えめに使ったとしても6日ほどの外用で、これだけ治まった状態にあります。
このペースが続くなら、ステロイド外用を続けていっても、依存には陥らないでしょう。
 ただし、ステロイドはあくまで対症療法ですから、今回、お米断ちがたまたまうまく行った(まだ確定ではない。このあと、一度負荷試験として、ご飯を一杯食べてみて、湿疹が再燃するようなら確定)かもしれないので、これで良いのですが、原因が解除されずにステロイドで抑え続ければ、依存に陥る可能性が高まります。

 ケース5の方の経過をここで引用したのは、ケース7,8のかたとの対比の意味があります。ケース7.8の方は、ステロイド外用剤の再使用はすべきではありません(また、仮に再使用しても、大して役に立たないだろう)。ケース5の方は、現時点ではステロイド使用(活用)可です

 愚痴になりますが、昔から私は、こういう診療を続けてきました。だから「ステロイド使用群、非使用群、どちらも診ます」なのですが、私がやっていることをよく知らない人たちが、「深谷は脱ステロイドだ」と勝手に決め付けて、祭り上げたり、批判したり、もう本当にそういうのはこりごりだ。
 私の本質は、単純に合理的でドライなんです。ただ、深いところで、とんでもなく底知れない優しさもある、それは自分でも自覚があります。この優しさは同時に自分の弱さでもある。
 
<軟膏作成法について>

先日、
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初めまして、いつも拝見さて頂いております。
本当は治験に申し込みたかったのですが、往来が厳しいのと、治験の様子を見ながら自分の近くで処方出来れば、と考えていました。
そして現在地元の皮膚科に通っているのですが、そこの主治医に深谷先生のホームページと、クロフィブラートの内容を伝えた所、「害は無さそうなので処方しても良いですよ」との返事を頂いた状況です。
そこで先生に具体的な作成方法を教えて頂きたく、コメントをさせて頂きました。ワセリンでもスプレータイプどちらでも結構です。
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とのコメントを頂きました。
 これは、私にとっても喜ばしい話なので、概略説明します。
 まず、クロフィブラートですが、赤い球状の製剤の中に、透明な液体として入っています。これを取り出すのは、写真のように、空気穴として針を刺す一方で、もう一方からシリンジで吸引してやるといいです。ヒートシールから出さないほうが取り出しやすいです。

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一錠づつ吸引していきます。
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 一錠中にクロフィブラート250mgが含まれています。クロフィブラートの比重は1.14ですから、全部取り出せると0.21ml、5錠で1mlになるはずですが、実際には6錠ほどで1ml採れます。
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 水中油エマルジョンの場合は、精製水200mlに対してクロフィブラート1mlの割で混ぜています(0.5%v/w=0.57%w/w)。使用感は圧倒的にエマルジョンのスプレーのほうが好評なのですが、スプレーというのは、噴霧した全量が皮膚に当たらないし、基剤がないと、皮膚からすぐに取れてしまう可能性もあります。なので、治験には白色ワセリンを用いています。スプレーは、念のため軟膏の倍の濃度にしています。
 
 白色ワセリンは、常温では、下図のような性状ですが、
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融点は38~60℃です。なので、70℃で湯煎してやると、
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このように透明な液体になります。
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 クロフィブラート1.1mlをこれに加えてやります。1.1ml/500g=0.22%(v/w)=0.25%(w/w)。
 動物実験で用いられているのは1mM=0.0243%(w/w)です(→こちら)から、ほぼ10倍濃度です。きっちり効果を出したいのと、濃くしても経皮吸収は大した量にならない計算(100g使用して全部経皮吸収されても内服一錠分)から、10倍にしました。
 クロフィブラートが70℃で安定か?について資料がないのですが、沸点は154℃とあり、そもそも常温保存の内服薬であって冷所保存品ではないですから、70℃は大丈夫でしょう。
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 これを容器に小分けして、室温にさめると、再びワセリンは固化して軟膏状となります。
 最初の頃は、「あわとり練り太郎」という軟膏作成器を用いていたのですが、大量になると結構手間なので、最近はワセリンを加温して液化して混ぜています。  
 これだと、一時間もあれば、2kg くらい楽勝で作れます。
 
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 仮に、これ、「ステロイドのような依存性の無いアトピーの特効薬ついに開発!」とかと銘打って、一個50g1万円くらいで売れば、立派にアトピービジネス出来るでしょうね・・。しかし、それは私はしない。以前にも書いたけど、そんなことして、病気の人からなけなしのお金巻き上げて、それで幸せ感じられる筈が無い。私には美容外科で手術するっていう腕があるから、健康で金銭に余裕のある幸せな人相手に、気持ちのいい商売してお金儲けます。  
  ただし、保険診療で、真面目にステロイドの依存性についてのフォローも含めて、患者を診てくれるお医者さんには心から敬意を表しますよ。私は、それが出来なかった。  
 そういう意味では、私は医者に向いてなかったような気もする。一方こうやって、多分私でなければ出来ない情報発信したり、美容外科でそこそこ成功してること考えると、医者は自分の天職だったような気もする・・よく解りません。  
 ステロイドの依存性に眼をつむって、ただただステロイド外用剤を処方するしか能の無い皮膚科医たちには、強い憎しみと怒りを感じますけどね、同じ医師としてというより、この問題に関わった一人の人間として。   

エマルジョンの作り方
精製水とスプレー容器を用意します。25
















容器に水とクロフィブラートを入れます

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混ざらずに分離しているので

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よく振ってやります。すると白濁します。(水中油エマルジョン) 

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これを直接皮疹部に噴霧します。しばらくすると水分は蒸発して油分(クロフィブラート)が油膜上に薄く残ります。これで外用終了です。

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