消毒療法(イソジン液と強酸性水)のエビデンスクロフィブラート軟膏のパイロットスタディ・補足4

クロフィブラート軟膏のパイロットスタディについて・補足3

 先日来、行っておりますクロフィブラート軟膏の試用は、現在9名登録で、うち6名が開始、2週間目の第1回再診が済んだ方が3名です。また、海外にいらっしゃる方2人に簡易版を行っており(→こちら)、1人は1週間目、1人は2週間目の中間報告を終えました。
 
 途中経過を開示することは、ほかの方々や、これから参加される方の先入観につながるので、控えますが、2点ほど気がついたことがあるので、記します。
 
1)軟膏は、1FTUのルールにのっとって、十分量外用してください。
 
 1FTUというのは、指先でだいたい一すくい分(0.5g)を手の平2枚分くらいの面積に塗るということです。1回目の再診の時点で、軟膏壷を回収して使用量を確認するのですが、おそるおそるというか、ほとんど外用されていないケースがありました。クロフィブラート軟膏というのは、ステロイドよりもかなり弱いものなので、十分量外用されないと、効くものも効きません。
とくに、それまで「脱保湿」で頑張っていた方にとっては、軟膏を外用するという行為そのものが抵抗があるようですが、ここは割り切っていただかないと、研究になりません。 
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 このくらいを手の平2枚分の面積に塗る
 
2)一部に外用して、一部には外用しない、ということはしないでください。 
 
 湿疹の無い健常に見える部分に外用する必要はありませんが、赤みだけの軽度な部分も含め、全体に外用するようにしてください
 
 これは、海外のお二人の途中経過から気がついたことです。1週間目の中間報告の結果は、お1人はmoderate(中程度に効く)、お1人はno change(効果を感じない)でした。海外のお二人には、プラセボ(白色ワセリン)と実薬(クロフィブラート軟膏)との両方を、どちらがどちらか判らないようにお渡しして、「左右のどちらかに一方を、どちらかに他方を外用してください」とお願いしていました。結果は分かれましたが、お二人とも「左右差はほとんどない」、という回答でした。「moderate(中程度に効く)」と答えた方は、Before/Afterの写真上も明らかに改善していました。 
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これをどう解釈するか?ですが、
A) 白色ワセリン(基剤)による保湿が効いた
B) 今回の試用とは関係の無い別の要因でよくなった
C) クロフィブラート軟膏を片方に外用してよくなることで、他方も良くなった(または、片方に外用しなかったため、外用した側も良くならなかった)
の3つの可能性があります。
 
 アトピー性皮膚炎の湿疹と言うのは、一ヶ所が悪くなると別の個所も悪くなる傾向があります。ある部分にステロイドを外用すると、別の部分も抑えられるといった経験のある方は多いでしょう(→こちら)。メカニズムは不明です。それを考慮すると、A)B)のほかにC)の可能性も有り得ます。海外のかたのお1人は、良くなった側の効果にひきずられて他方もよくなり、もう1人は悪いままの側にひきずられて他方も悪いままであった、という可能性があるということです。海外の「No change」の方には、「両側(全部)にクロフィブラート軟膏を外用してみてください」とお願いしてみました。海外の方向けの簡易版は方法を再考します。
 
 話を元に戻して、日本で試用に参加していただいている方の場合にも、「一部分にのみ外用して様子をみよう」とすると、軟膏の評価が正しく行われない可能性があります。ですから、皮疹の出ている部分全体に外用するようにしてください。
  
 以上、途中経過とお願いでした。
 それから、これは個人的なことなのですが、10年ぶりにアトピー患者を診察してみて、私自身の精神的な不安定さは、ほぼ回復していることがわかりました。これは本当にほっとしました。リアルな患者に接することで、フラッシュバックのように、昔の記憶や感情があふれてきたらどうしよう、と、とても不安だったからです。
 ただし、私の今の心境としては、今後、皮膚科の開業医として、アトピー性皮膚炎の患者を診ることは、もう無いでしょう。
 私は、現在美容外科医として、健康で幸せな方を相手にして商売をしています。自分自身の精神的なひ弱さが原因だと思うのですが、私は病気の方を相手に「商売」が出来ません。たとえ保険診療であってもです。
 以前、国立病院に勤務していたときはそれが出来ました。給与は病院から定額に振り込まれるものであって、自分自身の診療方針は自由に考えて構築することが出来たからです。
 しかし、個人開業医となった今、患者の払う対価=収入です。そのようなあからさまな環境においては、私の診療方針は制約されざるを得ないです。個人事業主として、頭の中でそろばんを弾いてしまいます。速く、多くの患者を診なければならないし、同じ結果が予想されるなら、より利潤の上がりそうな治療や薬を勧めるでしょう。それは、どうしても耐えられない。
 商売をするのが嫌いというわけではないのです(だから美容外科医やってます)。たくさんの患者を治して名医と言われたい、慕われたいというような欲求はありません(これは本当に全然無い)。ただ、アトピー患者に限らず、病気の方の不幸に関連して、自分がそこに介入してたとえ100円でも利潤を得る、それは、どうしても出来ない。なぜだか自分でもわかりませんが、その部分だけが異常に潔癖です。 
 私が介入することで、「確実に良くなる」と決まった話ならいいんです。それならお金取っても胸は痛みません
。また、アトピー性皮膚炎の場合は、どこまでが患者の回復力のせいで、どこまでが私の介入の効果なのかも判然としない。そういう仕事で私はお金が取れない。美容外科の仕事は結果主義みたいなところがあるので、私のこの潔癖さに親和性が高いです。 だから出来ます。
 ですから、現在行っているような、患者側の負担のまったく無い「研究」を行って、自分自身の臨床的関心・探究心を満たし、またその結果をこうして社会に発信するという行為、これを、自分の商売(美容外科のことです)に差し障らない範囲で今後も続けていく、というスタンスが自分にもっとも向いているのだろうなあ、と考えています。 
 「ステロイド依存」の存在という事実が、日本皮膚科学会で正しく認知されるまでは、アトピー性皮膚炎からは離れられない、この点だけは、数年前に覚悟しました。 
 まあ、お互い無理せず、ぼちぼちと駒を進めていきましょう。 
  
(追記)  
 白色ワセリン以外の基剤や、脱保湿を継続しながらの試用も可能です。 
  
  
 白色ワセリンは、それ自体でかぶれを起こしにくいので、外用剤の基剤や対照としてよく用いられます。それで、今回も、基剤として白色ワセリンを選んだのですが、「使い心地が悪い」と敬遠する方もいるでしょう。また「脱保湿」でよくなるタイプの患者も現実に存在する以上、保湿性のない基剤を工夫してみてもいいかもしれません。 
 それで、次のような方法を考えてみました。 
  
 まず、対照(コントロール)用に、クロフィブラートに外見性状のよく似たものを探します。クロフィブラートは無色透明油性なので、ジョンソン・ジョンソンのベビーオイルが使えそうです。 
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 ベビーオイルまたはクロフィブラートを、蒸留水に0.25%混ぜたものを、化粧水を使用するように肌に外用するか、スプレーポンプで噴霧して用います。  
 ベビーオイルやクロフィブラートと水とは混ざりませんので、静置すると分離します。ですから、使用直前によく振って混ぜてから使用します(サラダドレッシングみたいな感じです)。 
 対照としてベビーオイルを用いるのは、ベビーオイルもまた水と混ざらない透明な油剤だからです。見た目にはクロフィブラート入りと区別できませんから、ブラインドテストが可能です。 
 この方法ですと、基剤は水です(このような製剤は水中油エマルジョンと呼ばれます)から、脱保湿中の方でも問題はないはずです。 
 
 また、「脱保湿にこだわってはいないが、ワセリンは苦手だ」という方で、何か「これなら使える」というものがある方は、それを300g(またはcc)あらかじめご送付いただければ、それにクロフィブラート(またはベビーオイル)を混ぜることによって、試用が可能です。 
 ご検討ください。
  
  



moto_tclinic at 11:18│Comments(0)TrackBack(0)