Dr.Corkの表皮バリア破綻説(その1)乾癬のガイドライン中の「タキフィラキシー」「リバウンド」についての記述

Dr.Kligmanの警告

 1979年の、International Journal of Dermatology という皮膚科雑誌のこの論文で、Dr.Kligmanによって、Steroid addiction(ステロイド依存)という語が、はじめて用いられました。Dr.Kligmanは著名な皮膚科医で、これだけ権威あるひとが、アトピー性皮膚炎におけるステロイド外用剤の依存性についての、はじめての記述者だという事実は、皮膚科医であれば、意外に思われるかもしれません。 論文の内容は、まず、最初に、表皮真皮の萎縮・皮膚線条・毛細血管拡張・黒人における脱色素といった、その時点ですでに知られていたステロイド外用剤による副作用の記述から始まります。ついで、Steroid addictionという語が、以下のような文脈で、はじめて用いられます。
-----(ここから引用)-----
 Steroid addiction is a more subtle and more insidious type of side reaction. It is common but is not high in medical consciousness because it frequently goes unrecognized. Hence, it is underreported and not well characterized.
 (「ステロイド依存」は、それら(皮膚萎縮など)に比べて、より捉えにくく、潜行性の副作用である。普通によくあるのだが、臨床的に気付かれにくい。なぜならそれは眼に見えないところで進行するからである。そのため報告も少なく特徴もよくわかっていない。)
-----(ここまで引用)-----
 そして、このあと、そのような「ステロイド依存」の実例として、ステロイド酒さ、口囲皮膚炎、ステロイド痤そう、肛門・女性および男性外陰部の掻痒症・間擦疹、などがあげられ、最後に、慢性皮膚疾患(Chronic dermatoses)として以下の記述があります。
-----(ここから引用)-----
 Reound can occur in any chronic dermatoses which has been under long term treatment with topical steroids, Seborrheic dermatitis and atopic eczema are the most frequent examples in our experience. All too commonly the rebound flare is taken nonchalantly as part of the up and down course ofthe disease, almost an expected event. If the rebound is severe, a more potent steroid will often be prescribed, regrettably initiating the phase of steroid escalation. Close inspection will most often show that the flare has different characteristics than the basic dermatosiscracking, pustulation, intense redness are clues. Atrophy may suggest overuse,but the patient is generally addicted by that time
(リバウンドは、外用ステロイドを長期連用すれば、どんな慢性皮膚疾患においても起こり得る。われわれの経験では、脂漏性皮膚炎やアトピー性皮膚炎で生じることがもっとも多い。リバウンド現象は、原疾患の症状の変動であるとして関心を持たれないことが普通である。もしリバウンドが重篤であれば、より強力なステロイドが処方されるが、残念なことにそれは、ステロイド依存をより深刻化させる始まりでもある。よく観察すれば、リバウンドによる皮疹の増悪は、基礎にある皮膚疾患とは異なった特徴をもつ:亀裂や膿疱、強い潮紅は手がかりとなる。皮膚萎縮は使いすぎであることを示すが、そんな患者はすでに依存状態にある。)
-----(ここまで引用)-----
  Dr.Sultzburgerによってアトピー性皮膚炎患者へのステロイド外用剤の有効性が確認されたのが1952年ですから、本論文が記されたのは22年後ということになります。それからさらに36年経った2010年の現在、本邦においては、ステロイド依存やリバウンドの問題は、アトピー性皮膚炎の治療における負の側面として、ガイドラインにおいてすら記述されず、いわばタブーのように扱われ続けています。そのため、日本の若い皮膚科の先生のなかには、自院のホームページで「ステロイド外用剤でリバウンドが生じるなどということはありません。いわゆる『アトピービジネス』を行う民間療法者が言い出した大嘘です」と明記するかたさえいます。
 ステロイド外用剤の長期連用の結果としての「ステロイド依存(Steroid addiction)」やリバウンドという語は、1970年代に皮膚科医自身が気が付き、警告の目的で提唱した概念です。決していわゆる「アトピービジネス」や民間療法者が言い出したものではありません。

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Dr.ALBERT M. KLIGMANThe New York TimesWeb版)に掲載された写真を引用)Dr.Kligmanは、1947年に医師資格を取得し、その後ペンシルバニア大学皮膚科教授として長く研究を続けられました。(現在90才くらいです)。

moto_tclinic at 01:36│Comments(0)TrackBack(0)