Dr.Kaoの実験ステロイド拒否はマスコミ報道とは無関係

脱ステロイド患者のQOL(Quority of life)

 
Quality of life in patients with atopic dermatitis: Impact of tacrolimus ointment

Makoto Kawashima, International Journal of Dermatology 2006, 45, 731736

 東京女子医大の川島先生が2006年に上梓された論文で、アトピー性皮膚炎患者を、「ステロイド外用に対する恐怖感(Steroid phobia)の有無によって2群にわけ、それぞれを質問紙法によってQOL(quality of life)を比較したものです。ついでSteroid phobia群にプロトピックを外用させてその前後のQOLの比較もしています。


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 General populationは健常者、ADはアトピー性皮膚炎患者で、そのうち49人がSteroid phobiaと認定されています。AD患者(Steroid phobia含む)のQOLは健常者にくらべ低値でした。

 Kawashima2
 
Steroid phobia群のうち35名はプロトピック軟膏外用の同意が得られたようで、それによってQOLは有意に改善しました。まあ、そういう論文です。 これは、私の想像ですが、研究デザインの当初の予想としては「Steroid phobia群はAD全体と比較してQOLが悪い」ということだったんじゃないかと思います。そのあとでプロトピックを外用させてQOLAD群並みに回復すれば、「Steroid phobia群にはプロトピックを」というきれいな結果となったからです。この論文の歯切れを悪くしているのは、AD群とSteroid phobia群とで、QOLに有意差が出なかった点で(本文には「Steroid phobia群のQOLAD全体のそれより少し低かった」とは書いてはありますが、統計上有意ではなかったということだと思われます)、Steroid phobia群でQOLが上がったのなら、AD群全部ステロイドではなくプロトピックに変えたほうがいいということになりませんか?」と突っ込みたくなります。さらに、Steroid phobia49名のうちプロトピック治療を受けたのは35人ですから、1429%は救済されていないわけです。そういう人たちにどう対処するかという点にも触れて欲しかったですね。 内容はそういった、まあ、わかりやすい論文なのですが、読んでいて印象的なのは「Steroid phobia」という単語がやたら出てくるところです。6ページの短い論文なのですが、Abstractだけで7回、全文通すと23Steroid phobia」という語が使われています。  Discussionから一部を引用します。

-----(ここから引用)-----  

Topical corticosteroids have been the mainstay of treatment for AD in both adults and children for nearly 50 years. However, steroid phobia related to worry about the adverse events of steroids has become a problem in Japan. In such patients, alternative treatment options may be required. Tacrolimus ointment has been established as one of the treatments for AD. Because tacrolimus has a different mechanism of action than corticosteroids and is not associated with the same adverse events, it may be an appropriate and effective treatment for patients unable or unwilling to use topical corticosteroids owing to steroid phobia.

(ステロイド外用剤は約50年間、成人および小児のAD治療の主流であり続けた。しかし、副作用を心配するあまりの「ステロイド恐怖(Steroid phobia」が日本では問題となっている。そのような患者では、ステロイドに変わるオプション的な治療が必要である。タクロリムス軟膏はAD治療の一つとして確立されてきている。タクロリムスはステロイドとは異なるメカニズムで作用するので、ステロイドと同じ副作用は起きにくい。「ステロイド恐怖」のために、ステロイドを使用できない、あるいは好まない患者に対して、タクロリムス軟膏は適切であり効果的であろう。)

-----(ここまで引用)-----

Steroid phobia」という語は多用されているのですが、それがなぜ起こるのか?なぜ患者はステロイドに恐怖と言うか抵抗感を有するのか?という点にはまったく言及されません。とにかく「患者が『Steroid phobia』を有するから、それに対してプロトピックを使うのだ」というレトリックです。

 この論文を、ここに紹介したわたしの意図は、このレトリックは、今後日本の皮膚科学会では、しばらく主流となるんだろうな、と思うからです。Dr.Corkらのように、「ステロイド外用剤は、短期的に抗炎症効果を有しても、長期にわたって使用するとバリア機能の破壊につながり、リバウンドをきたしやすくなる(ステロイド依存)」といった、ステロイド外用剤の使用法に関する皮膚科医側の反省や解説はまったくありません。「患者がSteroid phobiaに囚われていて頑固でしょうがないから、alternativeな治療法としてプロトピックを位置付けるのだ」という論理です。 Steroid phobiaという単語をかざして、そこから先は一切思考停止する、あるいは読者を思考停止させる、とも言えます。非常に観念的な手法です。 裸の王様とはこのことだと思います。当面は、皮膚科学会を中心とした皮膚科医の間では「そうだそうだ」ともてはやされるかもしれません。しかし、いつか、王様は、一糸もまとっていない裸ん坊であることに、誰もが気が付くことでしょう。

 川島先生は、1998年に、日本皮膚科学会中部支部学術大会でご講演され、そのときの抄録が残っています。

-----(ここから引用)-----

演題:「ステロイド外用剤に罪はない

すごい演題名だと思います。まあ、たしかにステロイドに罪はありません。それを用いる皮膚科医側に問題があるわけですが・・)

アトピー性皮膚炎の治療におけるステロイド外用剤の使用に否定的な意見を述べる皮膚科医がいる。浅薄な薬害報道と医療批判を繰り広げるマスコミにとって、これらの皮膚科医は好まれる存在であるし、既存の治療法を否定することが前提となる民間療法には、格好の論拠を与えることとなる。その結果は、患者に必要以上の恐怖感を与え、ステロイド拒否のかたくなな姿勢を植え付けることとなり、治療の困難さはもとより、患者のQOLを著しく損なうこととなった。本症は遺伝性疾患であり、発症因子のすべてを除去することは不可能であり、対症的にその炎症をもっとも効果的に鎮静させるステロイド外用剤を使用すべき患者には当然使用するし、それで良好な経過が得られることは現在でも事実である。もし、脱ステロイドを行うのであれば、止めてみてから考えるのではなく、明確な根拠でその効果を予測すべきであった。多くの患者に苦悩を与えた責任は大きい。

-----(ここまで引用)-----

 わたしは、ステロイド外用剤の長期連用による依存性とリバウンドの存在に気付かず(または認めず)、その結果、なんとか離脱しようともがく患者たちを、「非科学的な思い込みに因われた不幸な人たち」、と社会にプロパガンタし、ステロイド依存の患者たちをさらにどん底に突き落とすような姿勢を取り続けた川島先生らの責任は非常に大きいと思います。離脱患者たちの社会的QOLは最悪となりました。 今後さらにSteroid addictionの機序が解明されていけば、非常に大きな薬害問題に発展する可能性もあると思います。すでに記したように、依存性やリバウンドの臨床症例報告は、20年近くも前から繰り返しなされてきているのですから。

 川島先生は、2000年に作製された、日本皮膚科学会編「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」(日本皮膚科学会雑誌1101109-1104,2000)の委員長でもありました。そこでの記述に、以下のような一文があり、川島先生の考える「Steroid phobia」がどんなものかを推察できます。

-----(ここから引用)-----

 ステロイド外用剤に対する誤解(ステロイド内服剤での副作用との混同およびアトピー性皮膚炎そのものの悪化とステロイド外用剤の副作用との混同が多い)から、ステロイド外用剤への恐怖感、忌避が生じ、コンプライアンスの低下がしばしばみられる。

-----(ここまで引用)-----

 「依存」という文言はありません。Steroid addictionの存在に気がついていなかったか、あるいは気がついていたが、意図的に記載しなかったかのどちらかだと思います。  日本皮膚科学会のガイドラインは最近では2008年に改訂されています。 金沢大学の竹原先生の名前はありますが、川島先生の名前はすでにありません。Steroid addictionの問題の重大さに気がついて、手を引こうとされているのではなかろうか?とさえ邪推してしまいます。論文で「Steroid phobia」を頻用しておられるのは、Steroid addictionの機序が解明され海外の論文で次々と報告されていることに対する、川島先生ご自身の潜在的な「恐怖」の表れではないかなあ、と感じました。 新しくガイドライン作製に関わる先生方におかれては、Steroid addiction問題を正面から見据えた再改訂を一日も早くお願いいたします。それが、皮膚科への信頼を取り戻す最善にして唯一の方法であると、わたしは考えるからです。



moto_tclinic at 23:53│Comments(0)TrackBack(0)