Steroid addictionのマウスモデル玉置先生の「療法」

NF-κBデコイの開発

 

Blockade of experimental atopic dermatitis via topical NF-kappaB decoy oligonucleotide.
Dajee M et al. J Invest Dermatol. 2006 Aug;126(8):1792-803. Epub 2006 Apr 20.

 NF-κBデコイ軟膏はbetamethasone valerate(ベタメサゾン)軟膏よりも、リバウンドや表皮の萎縮をきたさないという点で、アトピー性皮膚炎で長期に用いるには優れている、という論文です。

-----(ここから引用)----- 

 Although corticosteroids are common and effective in the treatment of skin inflammation, chronic use is discouraged due to potential side effects such as skin atrophy and pronounced symptomatic rebound following discontinuation of therapy,especially with mid- or high-strength topical steroids such as topical betamethasone valerate

(ステロイドは皮膚の炎症の治療において標準的であり有用だが、長期の連用は皮膚の萎縮をきたしたり、中止後にひどいリバウンド現象をきたすので勧められない。とくに中程度以上の強さのステロイド外用剤(ベタメサゾンなど)がそうである)

-----(ここまで引用)-----

 NF-κBというのは核内転写調節因子のひとつで、デコイというのは「おとり」という意味です。NF-κBデコイはNF-κBを不活化させます。  理解のために、図を探してきました。

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 GRはステロイドレセプターで、ステロイド(Glucocorticoid)はこれに結合したのち核内に入り、NF-κBによる炎症性サイトカインの発現を抑制します。したがってNF-κBデコイは、ステロイドと同じ機序によって、炎症を抑えるといえます。

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 マウスの耳にダニ抗原を皮内注射します。そのあとの腫れの強さが縦軸で、横軸は日数です。上からInflamed(無治療)、BMVNF-κBデコイの外用を行っています。外用StartからStopまでの2週間行っており、BMV(ステロイド)では外用中止後のリバウンドがみられるのに対し、NF-κBデコイではみられません

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 真皮のコラーゲンの厚さはNF-κBデコイでは不変ですが、BMV(ステロイド)では薄くなっています(atrophy


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 2週間外用後のTEWL(経表皮水分損失)を比較してみるとBMD(ステロイド)では上昇しています。既にある報告のように、バリア機能の破壊が見られるということです。

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 2週間外用後にアセトン処理をして、その後の表皮バリア機能の回復をみています。NF-κBデコイでは24時間後に回復しましたが、BMD(ステロイド)では48時間以上回復が遅れます。

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 さらに、14日間外用後の皮膚からmRNAを取り出し、比較してみると、SKALP(皮膚由来抗白血球プロテイナーゼ)、Keratin6.16(いずれも炎症性ケラチンで、炎症のあるときに誘導されるケラチン)は、いずれもBMVで多く発現していました。

 これらの結果はすべて、Dr.Corkの、ステロイド外用剤の長期連用が表皮バリア破壊につながりリバウンドの原因となる、という説を支持するものです。NF-κBデコイ軟膏にはそのような現象がみられない、とする論文です。

 カルシニューリン阻害剤でもそうですが、新しいアトピー性皮膚炎治療薬は、このように、ステロイド外用剤には、長期連用によって表皮バリアが破壊されリバウンドにつながるというデメリットがあるので、それをどう克服するか?という観点から研究されています。

 日本では残念なことに、「ステロイド外用剤の連用は依存を引き起こしリバウンドにつながる」と言うと、「それはアトピービジネスに口実を与えるものだ」と皮膚科学会の権威筋に叱られます。

 その「権威筋」の一人である、金沢大学の竹原和彦先生が1998に皮膚科雑誌に「アトピービジネス論」と題してお書きになった文章の一部を引用します(皮膚科の臨床40(1)125-132)。

-----(ここから引用)-----

「ステロイド外用薬“悪魔の薬”のストーリーはこうしてつくられた」 脱ステロイド療法を提唱する一部皮膚科医の主張がマスコミに取り上げられ、アトピービジネスに対する口実を与えた。

「リバウンド現象の本体」 ステロイド外用薬の欠点としてリバウンド現象をきたすという情報が一般に浸透してきている。しかし多くの場合リバウンド現象とは、不適切な治療が継続されている例において、不適切な時期に治療が中断されたことによる症状の急性増悪を意味しているにすぎない。

「自虐の美学・脱ステロイド療法」 アトピー性皮膚炎が酒さ様皮膚炎に置き換わっている例や、元来ステロイド外用薬に頼らなくてもよい例についての脱ステロイド療法の実践は当然であるが、すべての例に脱ステロイド療法が必要であるかのような主張は、炎症を放置することのデメリットを軽視し過ぎている。 脱ステロイド治療の問題点として、ステロイド外用による依存性の獲得、治療抵抗性の出現、といった観念的な副作用の情報を一般社会に広めたことが挙げられる。

-----(ここまで引用)----- 

 また、竹原先生は、脱ステロイドに熱心であったある先生が、脱ステロイドの経過がはかばかしくなく転院した患者から訴えられた裁判にも、以下のような意見書を提出しています。

-----(ここから引用)-----

「ステロイド外用薬による副作用としては、局所的副作用として、ステロイドざ瘡、ステロイド潮紅、皮膚萎縮、多毛、細菌・真菌・ウイルス皮膚感染症などが時に生じるが、中止あるいは適切な処置により回復する。ステロイド抵抗性(連用による効果の減弱)も、通常の使用では経験されない。ステロイド外用後に色素沈着が生じることがあるが、皮膚炎の鎮静後の色素沈着であり、ステロイドによるものではない。ステロイドによるリバウンド現象は、このようにステロイドを内服して大量摂取した場合に問題とされるものであって、ステロイドを外用薬として使用した場合には、リバウンドが生じることはほとんど考えられない。」

-----(ここまで引用)-----

 この裁判は2004年ころのものです。したがって意見書が書かれたのも、その頃だと思われます。 第三章で紹介した榎本先生の論文にもみられるように、ステロイド外用剤が副腎機能の低下がみられなくても重篤な全身症状や剥脱性皮膚炎をきたしうることは、1990年代からいくつも臨床報告があがっていました。 そして現在、世界的にステロイド外用剤による長期連用の問題点が、まさにリバウンド現象に対する反省から、新薬開発へと向かっています。  はたして「アトピービジネス」をはびこらせたのは、わたしたち脱ステ医だったのでしょうか?それともリバウンドの存在に気付かず、認めようとしなかった竹原先生たちだったのでしょうか?



moto_tclinic at 23:26│Comments(0)TrackBack(0)