IgE産生系への用心ステロイド依存例はリバウンド無くプロトピックに移行できるのか?

シクロスポリン内服によるリバウンド

Efficacy and safety of long-term treatment with cyclosporin A for atopic dermatitisDJ Hijnen et al.

JEADV 2007, 21 , 8589 c 2006 European Academy of Dermatology and Venereology

  シクロスポリン(サンディミュン)内服によるアトピー性皮膚炎治療で、中止後にリバウンドを生じる例があった、という報告です。

-----(ここから引用)-----

This is the first report describing a rebound phenomenon in AD patients treated with CsA.

(本論文は、シクロスポリンで治療されたアトピー性皮膚炎患者におけるリバウンド現象を記述した初めての報告である

-----(ここまで引用)-----

と、著者自身が本文中で、上記文章をそこだけわざわざ斜体文字にして強調しています。  研究は73人の患者を対象に行われました。シクロスポリンが投与された症例を、後から振り返ってまとめたRetrospective studyです。  

Hijnen20071
 
 

 シクロスポリンの投与期間は6ヶ月未満が25人、1年未満が25人、1年以上が23人でした。全例、投与中止後最低3ヶ月の観察期間があり、寛解(Remission)が45%、再燃(Relapse)が47%、シクロスポリン投与開始時よりも悪化したケースをリバウンドと定義し、このような例が8%(6例)あったと報告しています。 

-----(ここから引用)-----

Although CsA treatment was found to be highly effective, we found that 54.8% (40/73) of the patients (irrespective of treatment duration) experienced a relapse within 3 months after discontinuation of treatment. This includes 8% (6/73 patients) of the patients treated experiencing a rebound (with clinical symptoms more severe than at baseline). This is the first report describing a rebound phenomenon in AD patients treated with CsA. Interestingly, we coincidentally observed that patients experiencing this phenomenon showed a large increase of total serum IgE levels (if measured) during CsA treatment (data not shown). Although observational and highly speculative, we suggest that CsA treatment may be related to this rebound phenomenon with increasing serum IgE levels that was observed in a subpopulation of AD patients. The literature suggests a role for CsA in this phenomenon. Surprisingly, our results are, in this aspect, in contrast to previous studies, which have been reviewed by Naeyaert et al. They conclude from 13 published studies that there is no evidence for a rebound phenomenon after stopping CsA. Finally, clinical remission was seen in 45% of patients treated, supporting the suggestion that CsA can induce sustained remission in some patients.

(シクロスポリンによる治療の有効性は高いものの、54.8%40/73)で治療中止後の再燃がみられた(治療期間と関連無く)。この中には8% (6/73)のリバウンド例(治療開始時よりも悪化)が含まれている。本論文は、シクロスポリンで治療されたアトピー性皮膚炎患者におけるリバウンド現象を記述した初めての報告である。興味深いことに、われわれは同時に、リバウンドを起こした患者では、血液中の総IgEレベルが、シクロスポリン治療中に著明に増加していることを観察した(データは本論文中には呈示されていない)。あくまで観察および推測の結果ではあるのだが、シクロスポリン治療によるリバウンド現象は、アトピー性皮膚炎患者のうちでも、ある一群のIgEレベルの上昇した患者たちと、関連がありそうである。文献的にもシクロスポリンによってIgEが上昇するという報告はある。また、我々の研究結果は、過去にNaeyaertらによってまとめられた報告とは異なっていた。彼らは13の論文をレビューした結果、シクロスポリン中止後にリバウンドは生じないと結論していた。最終的には45%の患者で寛解が得られており、ある患者群においては、シクロスポリン治療後、寛解が維持されるようではある。)

----(ここまで引用)----- 

 プロトピック軟膏でもそうですが、シクロスポリンでの治療の後にリバウンドが生じるか?という命題は、二つのことを意味します。 1)ステロイド依存のケースで、ステロイド中止減量によって本来リバウンドが来るところで、シクロスポリンによって炎症を抑えたあと、一定期間後にシクロスポリンを中止すると、リバウンドはおさまっているか?(シクロスポリンによる治療期間中に、ステロイド依存は回復するか?)2)シクロスポリン単独で、依存やリバウンドは起きるのか?  この論文によって報告されたシクロスポリンによるリバウンド例が、1)2)のどちらに当たるかは、わたしには判断できません。 1)ということならば、良いのです。シクロスポリンは、ステロイド依存から回復するまでの、時間稼ぎ・つなぎという意味で、有意義だと思います。 

 2)の可能性についてですが、この論文の引用文献中に、以下のようなデータがありました(”The literature suggests a role for CsA in this phenomenon.”の”The literature”です)。  

Potentiation of in vitro synthesis of human IgE by cyclosporin A (CsA)

D. J. WHEELER etc. Clin Exp Immunol 1995; 102:85-90

 

 Wheeler19951

 これは、健常人のリンパ球にIL-4およ様々な濃度のシクロスポリンを加えて培養したときのIgE産生能をみたデータです。シクロスポリン10-7Mで、IgE産生が約40倍に亢進することがわかります(シクロスポリンの分子量は1202ですから、計算してみると10-7Mというのは、だいたい120ng/mlに当たります。ちょうど治療域です)。 私の昔の脱ステ医仲間の、木俣先生らが 1996年に報告した下記論文中のデータと比べてみてください。

Enhancement of in vitro spontaneous IgE production by topical steroids in patients with atopic dermatitis.

J Allergy Clin Immunol. 1996 Jul;98(1):107-13.

 

 KimataIgE1

 

ステロイド(BD)、非ステロイドの抗アレルギー剤の一種(cromoglycateSCG)を、それぞれ2週間外用した患者からリンパ球を採取し、IgE産生能を調べた結果です。ステロイド外用によって患者リンパ球のIgE産生能は亢進しています  

 この二つのデータはよく似ています。ステロイド外用剤は、依存→離脱・リバウンドの際に、IgEの著増を来たしますが、シクロスポリンには、ステロイドと同じように、ある濃度において、IgE系を亢進させる作用があります。ということは、シクロスポリンによってリバウンドが起こってもおかしくないです。 

  シクロスポリン(サンディミュン)を服用していた患者の離脱は、わたしは昔経験したことがあります。その患者は、ステロイド外用剤・ステロイド内服・サンディミュン内服の三つを併用しており、経緯を聞いたところ、ステロイド外用剤でコントロール不良のためステロイド内服を開始し、それが止められなくなったので、サンディミュンを併用してステロイド内服だけでも切ろうとしたところ、サンディミュンも止められなくなってしまった、という方でした。副腎機能を確認したところ抑制されていたので、まずサンディミュンを切って、次にステロイド外用剤から離脱し、ステロイド内服は半減期の短いコルチゾールに置き換えて生理的必要量内服を継続→rapidACTHテストを繰り返して回復確認とともにステロイド内服中止、と進んだ記憶があります。全行程で4年くらいかかったでしょうか。

 サンディミュン中止とともに、少しflare upというか、もともと紅皮症でしたが、やや悪化し、「サンディミュンでもリバウンドが来るのだろうか?」と思いました。 患者は20台の男性でしたが、離脱までの数年、もちろん職にはつけず、毎晩眠れないので、夜中に近所に聞こえるような大声で「ウオー」と叫んでいたそうです。離脱してからは、幸い就職先も決まり、私が美容で開業したあとも、何度か美容外科のお客さんとして訪ねて来てくれました。リバウンド後のしわや色素沈着の相談でした。ですから、サンディミュン投与でさえもコントロール不良の、最重症のアトピー性皮膚炎患者であったはずのひとが、離脱後3年以上、一切投薬もなく、社会生活に復帰しているわけです。

 結局、彼に投薬されていた、ステロイド外用剤・ステロイド内服・サンディミュン内服とは何だったのでしょうか?わたしは「ステロイド依存」という病態から、日本の皮膚科医たちが目を背け続ける限り、彼のようなケースは繰り返されると思います

 シクロスポリン治療を全否定しているのではありません。ある「重症」のアトピー性皮膚炎患者が、実は「ステロイド依存」であった場合には、単にシクロスポリンを投与するだけでは解決できない、ということを強調したいのです。



moto_tclinic at 15:51│Comments(0)TrackBack(0)