佐藤先生(阪南)の学会発表に対する古江先生(九大)の質疑
このときフロアから、九州大学の古江教授が質疑をされたようで、その様子を佐藤先生ご自身が短報としてまとめて、ご自身の患者たちが集う掲示板に以下のように記しています。
【日本皮膚科学会中部支部学術大会の報告】 |
ときどき、コメント欄を通じて、「標準治療のお医者さんと、脱ステロイドのお医者さんは、なぜ仲が悪いのですか?もっと、患者のために、相互に意見交換・情報交換すべきではありませんか?」といった、ご意見をいただくのですが、私たちがそのような努力をしてこなかったのでは決してありません。こちらがいくら議論しようとしても、先方がまともに相手してくれない(激高・感情的になったり、威圧しようとする)のです。佐藤先生の短報からその雰囲気がお解かりいただけるかと思います。
なぜ、このような手法が採られるかというと、その最大の目的は、学会に勉強に来ている若手皮膚科医たちへの、ステロイド依存問題にかかわるな、という威嚇だと私は思います。
一応、古江先生の質疑の矛盾を指摘しますと、古江先生は、ご自身が2011年7月にお書きになった論文中で、
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The total usage of topical steroids was unexpectedly higher in the “uncontrolled” group than in the “controlled” group. The statistical difference became more obvious in the adolescent/adult group than in the childhood group (Table 3). Topical steroids are useful for treating AD, but there appears to be a subgroup of patients who remain severe despite increasing applications of topical steroids.
コントロール不良群でのステロイド外用剤使用量は、コントロール良好群に比べて、予想外に多かった。統計的有意差は、小児よりも思春期成人において、より明らかであった。ステロイド外用剤はアトピー性皮膚炎の治療に有用であるが、ステロイド外用量を増やしても「悪い」ままである一部の患者群がいるようである。
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と、ステロイド外用量を増やしても、良くならない患者がいることを認めています(→こちら)。
その上で、ステロイドの使用量が少ないためにコントロールされていない患者もいる、と分析なさっています。
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Nevertheless, all of the patients in the “uncontrolled” group may not have been “uncontrollable”, because the total application dose per 6 months in 50% of the “uncontrolled” patients was very small (Table 6, undertreatment state).
しかしながら、コントロール不良群の全ての患者が、真にコントロール不能というわけではないかもしれない。なぜなら、コントロール不良群の患者の50%では、ステロイド外用総量が非常に少ないからである(表6、外用量不足)。
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古江先生の名誉のために付記しますと、古江先生は、佐藤先生の短報にも少し記されているように、ふだんはとても紳士的な方です。その古江先生をして、このような質疑をなさしめるといった、異様な状況が、もうこの十年以上、続いているわけです。
私は繰り返し記していますが、標準治療を全否定しているわけではありません。古江先生御自身が記しておられるような、「ステロイド外用量を増やしても『悪い』ままである一部の患者群」について、その中にはステロイド依存例・抵抗性が含まれているだろうから、そういった患者群への対処をガイドラインに書き加えるべきではないのか?と訴え続けています。佐藤先生の今回の御発表の趣旨も、そこにあったと思います。
古江先生も、私も佐藤先生も、基本的認識は同じなのです。次の機会には、古江先生が、激高・感情的・威圧的になることなく、冷静に議論してくださいますよう希望いたします。
※付記: 参考として、1998年10月の日本皮膚科学会中部支部学術大会のシンポジウムの抄録を記しておきます。
川島眞(東京女子医大) 「ステロイド外用剤に罪はない」 アトピー性皮膚炎の治療におけるステロイド外用剤の使用に否定的な意見を述べる皮膚科医がいる。浅薄な薬害報道と医療批判を繰り返すマスコミにとって、これらの皮膚科医は好まれる存在であるし、既存の治療法を否定することが前提となる民間療法には、格好の論拠を与えることとなる。その結果は、患者に必要以上の恐怖感を与え、ステロイド拒否のかたくなな姿勢を植え付けることとなり、治療の困難さはもとより、患者のQOLを著しく損なうこととなった。 本症は遺伝性疾患であり、発症因子のすべてを除去することは不可能であり、対症的にその炎症を最も効果的に鎮静させるステロイド外用剤を使用すべき患者には当然使用するし、それで良好な経過が得られることは現在でも事実である。もし、脱ステロイドを行うのであれば、止めてみてから考えるのではなく、明確な根拠でその効果を予測すべきであった。多くの患者に苦悩を与えた責任は大きい。 玉置昭治(淀川キリスト教病院) 「ステロイド推進派との違い」 ステロイド軟膏に頼る治療で問題になるのは、塗っても効かなくなる、またはステロイド依存症になる例がある点である。ステロイド軟膏が有効でコントロールできている場合に中止する必要はない。しかし、ステロイドの効果がある間にステロイドを止める努力をしたほうが、ステロイドが効かなくなって止めるより止め易い。増悪因子を解明しステロイドを使わなくてもいいようにすべきである。ステロイド軟膏が何時までも効くとは考えがたい。ステロイド以外の治療を希望する患者にステロイド使用に固執すると、納得させたつもりでも皮膚科医以外の治療者に逃がすことになり、不幸な結果を生む。アトピー性皮膚炎は皮膚科医が指導すべきである。その治療は医師と患者との共同作業である。ステロイド軟膏しか確実に効く薬はないが、使う場合、使わない場合の医療情報をきちんと提供したうえで患者に選択させるべきである。 |
13年前のものですが、今回の古江先生の質疑と比較すると、まだ、この頃のほうが、まがりなりにも議論らしいことが行われていただけ、ましだったのかなあ、と思います。
川島先生の論調は、このころ既に威圧的・脅迫的でした。お二人の意見の大きな違いは、いわゆるアトピービジネス(脱ステロイド系の民間療法)が、皮膚科医が脱ステロイドに取り組むことによって増加すると川島先生が述べているのに対し、玉置先生は逆で、皮膚科医が脱ステロイドに取り組むことによってしか解決しない、と述べている点です。
私も経験しましたが、川島先生にはじまる、皮膚科学会での、脱ステロイドに関する演題に対する、罵倒とも言える感情的な糾弾・排斥は、温厚で紳士的な古江先生をも、そのような態度で臨んで当然、いや、そのように対処すべきだ、という気持ちにさせてしまったのでしょう。この点、東大皮膚科医局の先輩である川島先生の責任が大だと感じます。